クルルのおじさん 料理を楽しむ

ちょいと良い話

僕の単身マンションは、名古屋駅から地下鉄で20分ほどの駅の近くにあります。所謂、文教地区かと思います。チョット奥に入ると閑静な住宅街、駅の近くはコンビニ、スーパー、本屋サンを含む商店街があります。商店の中には、フランス人(と思われる)ダンナさんがやっているパン屋さんがあります。近隣の町からもお客さんがワザワザ買いに来る評判のお店です。このご家族が偶然同じマンションの住民で、最初にエレベーターでご一家とお会いした時には、それだけで嬉しく思いました。奥様は日本の方ですが、子宝に恵まれていらっしゃって、それはそれは可愛いいフランス人形のような女の子もいらっしゃいます。また、ご長男(と思いますが)の子は将来アランドロンのような映画俳優になるかと思わせるような。たまにエレベーターで一緒になる時、見ていてこちらも楽しくなるようなご家族です。

 

このマンションは安全管理がよく出来ていて、入り口は二重扉、自分でカギを持っているか、または、訪問するおうちの方に開錠してもらわないと入れない構造になっています。二重扉の内側に新聞ポストがあり、このポストの扉も同じ鍵で開閉するようになっています。マンションの入り口の鍵、ポストの扉の鍵、自分の部屋のドアの鍵が一つで全てこなせる様になっている訳です。

先日、出張に出る時(後で、荷物も多く時間も急いていたからと反省したのですが)新聞を取り出した後、ポストの扉に鍵をぶら下げたままマンションを出てしまいました。本人は全くそのことに気が付いておらず、出張先でこのマンションの管理会社の方から電話を頂いてビックリ。

「鍵がポストにぶら下がったままになっていますよお」。僕は、電話の方がその時にマンションにいるものと思いましたから、

「今、出張で出ているので、鍵を預かっておいて頂戴」と言ったところ、

「いえいえ、マンションの住民の方から管理事務所に連絡があったもので、私は事務所にいるので取り行けない。まだ、ぶら下がったままのはずだから、早く、自分で回収するように」と冷たい(当たり前の)返事。

「そんなこと言っても、単身住まいで、今日は家族は来ていないし、本人は出張で明日の夕方まで不在。治安上問題だろう。なんとかならないのか。住民が困っている時に助けるのが管理会社の役割だろう!!」と逆切れして、親切な事務所の方に食って掛かる始末。言ってしまった途端に自らの身勝手な屁理屈・言い分に恥ずかしくなりました。この方は大変によく出来た方で僕のそんな言い分に声のトーンを荒げることなく冷静に、

「何か出来ることがあるか考えてみます」と収めてくれました。

電話を切った後、少しは冷静にどう対応したらよいのかを考えました。

スペアの鍵は留守宅にある。仕事を早く切り上げて留守宅に立ち寄り鍵をピックアップして日帰りで帰る。よし、これしかない。うーん、ちょっと待てよ。会社にもスペアの鍵を置いてなかったかな?。会社に電話を入れ、事情を説明して探してもらいましたが、スペアの鍵は無し。やむなし。やはり出張を日帰りに切り上げ、とにかく急いで帰って回収しよう。

お昼前、また、管理会社の方から電話がありました。

「まだ、鍵がぶら下がったままですよお。どうしますか?」のんびりした問い合わせです。

「出張を早めに切り上げて今日の夜には帰ることにした。それまで、どうしようもない。鍵を取られないことを祈るのみですよ」と言いましたら、

「いえいえ、今、私はマンションのポストの所にいて目の前に鍵がぶら下がっているのです。どうしますかあ?」ということでした。

”あほかお前は、それを早よ言わんかいな”、流石に、これは口には出しませんでした。スペアの鍵は留守宅で入手出来ることを説明して、相談した結果、鍵をポストに入れてもらうことが安全・簡単な受け渡しの方法だと意見が一致。ホットしたところです。

その後、会社で心配している連中に安心してもらおうと電話を入れたところ、担当が”とにかく現場に行って対応を考えてみる”とマンションに向かっていることが分かりました。有難いやら、申し訳ないやら、すぐに連絡を取って戻ってもらいました。駆けつけようとしてくれたことがすごく嬉しかったです。

お陰さまで、その日は、もともとの出張を予定通りこなし、夜は一安心してお酒を美味しく頂きました。翌日の夕方、マンションに帰り、ポストの中の鍵を確認。お礼とお詫びの電話を管理会社に入れました。どなたが通報してくれたのかを問い合わせたところ、

「連絡は二人の方からあった。個人情報の問題があるので名前は言えない」と筋の通った話。部屋番号だけを教えてもらいました。手元にあった若干のお茶・菓子を包んで、順番に回りました。一件目はすぐに出てきてくれました。優しい親切そうな奥様で無事に鍵を回収できたことを喜んでくれました。二件目はドアのチャイムを鳴らしてもなかなか反応が無く、お留守かと引き返そうとした時にドアが開きました。フランス人(であろう)パン屋さんのご主人でした。経緯を説明しようとしたもののキョトンとした顔で、そりゃこんな話を日本語で説明されても”なんのこっちゃ”と思うでしょう。困ったなあ、と思ったときに、奥の方から、奥さんの声が聞こえてきました。

「そうなんですよ。鍵がついたままだったので、電話いれたんですよお」と言いながらアランドロンのお兄ちゃんとフランス人形の女の子と、もう一人、赤ちゃんを抱きながら顔を出してくれました。皆さん良い表情でニコニコ笑って無事鍵が回収できたことを喜んでくれました。僕も、ちゃんとお礼に回ってよかったなあとほんわかとした楽しい気持ちになりました。

 

通報の電話を入れてくれる、事務所からわざわざ出向いて鍵を確保してくれる。「ひと手間」をかけるか・かけないかの話ですが、困った時、自分の周りに「ひと手間」をかけてくれる方がいらっしゃるということは本当に嬉しいなあと思いました。

 

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・・・フクロウ・・・福郎・・・ひと手間かける人に福が来ますように。