クルルのおじさん 料理を楽しむ

『食べる力』

前回に続き面白かった本の紹介です。”面白い”というのは失礼な言い方かも知れませんが、大変に興味深く読みました。「食べることの大切さ」を真剣に語られています。

『食べる力』---口腔医療革命---塩田芳享さん著。文春文庫、2017年1月20日第一刷発行。著者は1957年生れの医療ジャーナリスト。

出張に行くときには何冊か本を持って行くようにしています。移動中は一人になる時が多いので専ら読書を楽しみたいと。会社にある図書文庫で本を借りたり、駅の本屋さんでブラブラ立ち読みして本を見つけたり。誰の紹介でも無く、それまで全く知らなかった良い本を本棚で見つけた時は、それだけで喜びを感じます。前回の『俳句と暮らす』に続き、”見つけて良かった、買って良かった、読んで良かった”と思える本に連続して出会えましたので、自分はまだ運・ツキがあるなあと思いました。

 

飲み込む力が低下することで「食べられないお年寄り」が急増しているそうです。誤嚥を恐れる医療現場が安易に「禁食」させることで、口の機能が衰え、退院後も食べることが出来なくなってしまう。多くの取材を通して「食べることの大切さ」について説得力のある説明をされています。

説得力があると感じるのは「噛んで普通の食事ができることが何より元気の源」という切り口・問題の設定が的を得ている、素直に共感できるからだと思います。

 

『おばあちゃんとは呼ばせない』で書きましたが、この本でも、日本の超高齢社会の課題を指摘されています。この本に沿って若干のおさらいをすると平成27年(2015年)現在の高齢化率は26.7%。高齢者とは65歳以上の方のことです。

高齢になると高頻度で起こる症状の総称を「老年症候群」というそうです。その中で最も怖いのが「嚥下障害」。高齢者は、飲み込む力が低下するからです。嚥下障害が何故怖いのか、それは「窒息」と「誤嚥性肺炎」という命に係わる病気を引き起こす可能性があるから。多くの医師たちは患者さんに細心の注意を払う。それが過剰に安全性を強いるあまり「食べること」が犠牲にされることになってしまう。

医師から「食べてはいけない」と指導・診断される。「食べられなくなるとドンドン体力、免疫力、生命力が低下し、さらに合併症を生む。食べられない高齢者共通の負のスパイラルに陥る」と。

「多くの医師は自分の専門分野の治療を優先する。『食べること』が時として治療の邪魔になり、更には、危険なものにさえなる。医師が『食べさせない』選択をすることが当然に起こっている」

「そもそも、医師は『食べること』そのものを勉強していない。完全な専門外なのだ」

「口の中は、医科と歯科の狭間で見過ごされていた分野。口腔の機能を改善すればもっと食べられる人が増えるのにそれが見過ごされている」との指摘です。

 

厳しい指摘が多いですが、単に批判するのではなく、医者はなぜ「食べてはいけない」というようになってしまったのか、どうすれば改善できるのかを提示しようと努められています。副題に「口腔医療革命」とある通り、口腔の機能を改善させることにより自分で噛んで食べることが出来るようになる。口のリハビリで「食べる力」は蘇る。著者の一つの大きな主張です。そのためには、患者本人、それから家族が、食べたい、食べさせたいという強い思い、意思を持つことが大切だと。

 筆者はもともと映画の助監督、演出家。お母様が高齢のため、入れ歯が合わなくなってしまった。噛むことが不自由になり、噛んで食事することが出来なかった。それでも、あきらめないで、もがき苦しんだ。やっと良い先生と出会え、母親は自分で噛んで食べることが出来るようになった。その時の母親を見ていて、噛んで食べることが健康の基本!という当たり前のことを身に染みて感じたと。

 

「フレイル予防」という新しい介護予防があるそうです。「フレイル(虚弱)とは健康と要介護の中間点の意味で、早く気づいて努力すれば健康から要介護への一方通行ではなく、その逆もある。要介護から健康に戻れる。そのためには「身体」だけの予防でなく「社会性」「精神心理」を多面的に予防していくことが必要だ」と。

このフレイル予防は日本老年医学会の教授が中心になって取り組みをされています。面白いのは、元気な高齢者の方にそのフレイル予防の担い手になってもらうという発想。高齢者が高齢者に対してフレイルサポーターとなる。どこかで聞いた話だなあと思い調べてみたら、この学会は本年1月に、高齢者の定義を75歳上に引き上げるべきだ、元気な高齢者には担い手としての役割を果たしてもらおう、との提言を出された学会でありました。もう一度『おばあちゃんとは呼ばせない』を参照ください。さらに、「フレイル予防」では介護予防を”街ぐるみ”でやろうと、高齢者が社会参加できる街づくりを目指した活動を進められている由。

このブログで取り上げた自分の関心があるテーマが、イロイロな接点・広がりを持っていることを発見するとこれも楽しくなります。何かの輪が広がるような気がします。

 

全くのわたくし事ですが、4月初めの日曜日に息子の結婚披露宴がありました。良いお天気の日でした。家族・親戚の皆さんに集まってもらいました。実は新郎新婦ともにまだ学生です。医学生です。二人とも所謂文系の人間ですが、新郎は30歳を超えてから、新婦は20代後半になってから、それぞれ思うところがあり、医学を学びたい、お医者さんになりたいという強い気持ちから医学部受験に挑戦。この4月で新郎が5回生。新婦が4回生。大学で二人の出会いがありました。

僕は、最近特に涙もろく、長女、次女の結婚披露宴の時はボロボロと泣いていました。さすがに新郎の父親の立場では、カッコつけてしっかりしたフリをしなければと思っていたのですが、最後に新婦から母親に送るメッセージの時には涙が出てしまいました。その後に、親族代表で皆様へのお礼のあいさつをする訳ですからたまったものではありませんでした。

ご参加いただいた皆様へのお礼の挨拶になったのか、医学生の二人が無事に卒業するようにエールを送ったのか、スピーチの内容はともかくとして親としては大変に嬉しい一日でした。全くの親バカです。

 

その結婚披露宴の後で、この本を読みました。二人が無事に卒業出来た暁に、どんな分野に進もうとするのか全くの本人次第ですが、この本を読んで、改めて、患者さんに寄り添って、患者さんが幸せに生きる、それをサポートするお医者さんになってほしいなあ、と思いました。日野原先生のように志を高く持って、高齢になってからも元気に活躍して、自分の生き様を通してみんなを元気にすることが出来れば最高ですね。

  

美味しく食べる、元気に喋る、楽しく笑う。噛んで食べることが健康の基本!大切にしたいと思います。

 

オマケ。孔瑠々の台所俳句?です。ご笑納下さいませ。

●大盛りの納豆チャーハン春うらら

●正月にネギチャーハンを二人分 

七草の粥のつもりが雑炊に 

●煮え端が食べごろなりと講釈し 

●よく噛んで食べて笑って輪が広がりおり

 

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f:id:hayakira-kururu:20170405115447j:plain 東京、千鳥ヶ淵の桜。4月3日・月曜日撮影。この当たり前に平和な日本を大切にしたいです。