クルルのおじさん 料理を楽しむ

八丁味噌

 八丁味噌は、愛知県岡崎市の八帖町にある二軒の味噌屋さんで作られている味噌です。原料は、大豆と塩のみ。じっくりと時間をかけて熟成された天然醸造の味噌です。

八帖町は昔むかしは、八丁村と呼ばれ、岡崎城から西へ八町の距離(約870m)にあったことが村名の由来になっているとか。古くは、1560年の桶狭間の合戦で徳川軍の「戦陣握り」として八丁味噌が兵食とされていた由。岡崎市を流れる矢作川(やはぎ)流域で栽培されていた矢作大豆、それから、知多半島半田市の成岩(ならわ)および吉良上野介で有名な吉良町饗場(あえば)で生産されていた塩を原料としたものです。吉良上野介さんは忠臣蔵では敵役ですが、地元では、塩田の開発をはじめ産業の振興を図った名君として今でも大変に人気が高いお殿様です。三河岡崎辺りは、高温多湿の気候でコメの栽培にはあまり適していなかったので、地元で採れる大豆の利用を図った。岡崎には、矢作川の水運を利用して塩座が賑わっていたので、塩を活用することが比較的に容易に出来たことも八丁味噌が生まれた背景にあるのでしょう。

 

八丁味噌を生産されている二軒の味噌屋さん、カクキュー(合資会社八丁味噌)さん、まるや八丁味噌さん、を社会科見学に行きました。何を今更、社会科見学か!?ですが、なかなかに面白いモノです。『私の本棚(2016年9月18日)』で書きましたが、僕の高校は大阪ですが今でも同期会が盛んです。愛知県在の仲間でも四半期、半年に一度くらいは集まっています。ただ単にメシ食べて大酒を喰らうだけではモッタイナイと。まあ、みんな年を取ってムチャ飲みが出来なくなったことも理由の一つですが、この2-3回は、地域の文化を探索しつつお酒を飲んで楽しく語り合う会となっています。それで今回のテーマが岡崎城八丁味噌

道中の話題は、「八丁味噌と赤だし味噌とは、そもそも別なモノか否か。別なモノであれば何が違うのか?」という極めて愛知県ローカル的なものでした。僕は別モノであるという認識はありましたが、何が違う?と言われるとウーン?の状態。正解は準備されていたのですが、現地で工場見学をして確認が出来ました。答えは意外と単純で「八丁味噌と米味噌を調合して、八丁味噌の濃厚な味と米味噌の柔らかな甘さを調和させたものが赤だし味噌」とのこと。なるほど、そういうことかと納得しましたが・・・。

 

この時に質問するのを憚ってしまいましたが、一方では、八丁味噌ではない豆味噌がありますよね。いわゆる普通の赤味噌。それを米味噌と調合しても、赤だし味噌と呼ぶんでしょうね。後でウイキペディアで念のために調べたところ、「八丁味噌」の商標認定はされていないそうです。いわゆる普通名称との認識です。それでも、「八丁味噌と呼べるのはこの八帖町の二社だけが生産している味噌である」という事は公知とされているそうで何よりのことと思います。NHKの朝ドラで「純情きらり」というのが2006年上半期に放映されたそうですが(スミマセン、僕は見ていませんでした)、このドラマは、朝ドラでは初めて愛知県を主舞台にしたもので、この八丁味噌の2社が重要な舞台になっていた。八丁味噌といえば、この2社だ、と言うことが広く認知されるのに大変な貢献をしたそうです。NHKさんエライ。

 

工場見学で、八丁味噌の製造は大変に手間と時間がかかるものだということを学習しました。大豆を蒸す。煮るのではない。味噌玉を作る。拳大の大きさ。麴をつけて発酵させるが、大豆麹は大変に難しいとのこと。仕込みでは塩と水を加えてコネ合わす。この割合が重要なポイントになる。塩と水の量は限りなく少なくして発酵に時間をかける。発酵の時間が早くなってしまうので天地返しはやらない。寝かせたまま。仕込みの桶は、高さ、直径ともに2m以上の杉の木桶。その中に約5-6トンの味噌を入れ、布または板一枚を敷いた上に、3-4トンを超す石を積む。この重石の石のサイズはバラバラ。均一に荷重がかかるように積まれる。桶の上に石のピラミッドが出来上がる。全くの職人技です。地震があった時も、この重石は崩れたことが無いとのこと。しっかりと積まれています。

大豆麹を作るのは冬。仕込みが開始されて以降、発酵が進む訳ですが、発酵が進むに連れて、時期的には次の夏にかけて、何んとこの数トンの石が持ち上げられる。発酵の力で重石のピラミッドが上がる!。9月ごろがピークとか。その後、冬にかけて重石は徐々に下がり、2月ごろには元のレベルに収まる。「二夏二冬の歳月をかける」という表現をされています。大豆と塩だけで作ると言われると、塩分が濃さそうな印象を受けますが、全く逆で、出来た製品の塩分は少ないものになっているそうです。八丁味噌は固く、そして、コクが深い。製品は2年から3年半もかけて出荷されることになります。

 

この味噌蔵は、今でも、土間、土壁を出来るだけ残していると。味噌は生きている!。蔵の内部は、酵母・乳酸菌の宝庫とか。生息する自然の微生物の絶妙な働きで旨味成分を自然に引き出し、特有の香りと艶を醸し出しているとの説明がありましたが、なるほどと納得できる風景でありました。案内の方から「深呼吸をしてこの微生物を体の中に取り込んで帰って下さい」とのお話があり、僕は真剣に深呼吸を繰り返しました。

100兆個の共生微生物の働きを期待している僕としては(『共生微生物』2017/1/23を参照下さい)、この地で、数百年以上も活動を続けている微生物を大量に吸収出来て大変に幸せな気持ちになりました。 

 

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 「カクキュウ」さんの蔵。2017年6月撮影。

 

八丁味噌は、煮込めば煮込むほど旨くなるそうです。名古屋メシ、愛知県の地元料理はイロイロとありますが、「味噌」何々が結構多いです。「味噌カツ」、これは名古屋に来るまで知りませんでした。当初は、何故わざわざトンカツに味噌をつけるのか疑問に思いましたが、今では美味しく頂けます。味噌タレの味が旨いのです。でもまあ、毎日、食べたいとは思わないかなあ。「味噌煮込みうどん」、これは八丁味噌の特色=煮込んでも風味が落ちにくいことを上手に利用した料理だと思います。出汁の味は大好きなのですが、残念ながら、よく指摘されている様に、うどんに「芯が残っている」のがいまだに気になります。個人的には、「味噌おでん」「みそ田楽」「どて煮」「どて鍋」が大好きです。ビール、日本酒に合います。食べたことが無い方がいらっしゃれば、是非に、お勧めします。

毎年「なごやめし博覧会」というのが催されています。市の中心部、食堂・レストランの協力を得て開催されています。飲食店回遊型イベントと言うそうです。要するに、街中を食べ歩いて、何が一番、美味しくて、かつ、面白かったかを競い合って盛り上げるイベントです。今年は、2017年10月1日から11月19に開催されるそうです。是非、足をお運び下さいませ。

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愛・地球博記念公園の観覧車のトップポジションから撮影。「サツキのメイの家」は、写真の右上の池の更に右側に広がっている山林のなかにあります。2017年6月撮影。