クルルのおじさん 料理を楽しむ

カズオ・イシグロ、その2.

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 北海道、支笏湖の観光船。支笏湖は透明度の高い湖。乗船して地下の座席に着くと湖底が見えるように設計されている。座った途端にヒメマス、ニジマスがお出迎え。お客様との最後になるであろう懇親会に参加してきました。皆さんに感謝の気持ちをお伝えすることが出来ました。感謝、感謝です。2018年5月25日撮影。

 

 

かなり前に、電子書籍と在来の本の比較をしている記事を読んだことがあります。普通の本の良さ=電子書籍では感じられないであろうことの一つに、普通の本は読んでいて残りの枚数が分かる。その時点で半分まで読んだとか、残り1/3になったとかが 一目瞭然に感じられることを挙げられていました。久しぶりに500頁近い長編小説を読み終わりましたが、最後の最後までハラハラドキドキ、まだ、終わらないで頂戴、もっと続けて欲しいと感じながら、あっという間に、全部、読み終えてしまいました。やはり、頁を自分で捲りながら、今、この物語のどの辺りにいるのかを感じながら読む方が楽しいと思います。

 

 

カズオ・イシグロさん著「忘れられた巨人」。文庫本で478頁の長編力作です。長編小説としては「わたしを離さないで」以来10年ぶり、短編集「夜想組曲」からも6年ぶりの作品の由。2015年に発表されて、日本でもすぐに翻訳出版されたそうです。前回の『カズオ・イシグロ』でテレビ番組=「文学白熱教室」の事を書きましたが、この番組は「忘れられた巨人」の日本での販売プロモーションを兼ねた企画で来日された時に収録されたもののようです。本を読み終えてから、もう一度、借りたビデオ録画を見てみました。

 

「発表直後の講演だから、内容の詳細は言えないが」と前置きしながら、この小説の骨子を紹介されていました。アーサー王伝説を土台にしたファンタジー的な舞台設定です。「みんなが出来事を忘れていく、記憶が朧げになっていく。その原因は、ドラゴンの魔法の息。ドラゴンを退治すれば記憶が戻るはずとの見方が多いのだが、いやいや、嫌な記憶を封印することで平和が保たれているのだから殺してはならないという空気も結構強い」。主人公は老夫婦、そして、戦士と少年、賢者、さらに老騎士と面白いキャラクターが登場します。イシグロさんは嫌がるのでしょうがファンタジー映画を見ているような素晴らしい展開です。

 

 

イシグロさんの解説によると、

「この物語では語り手の口調が一貫していない。それが物語の進展とともに、徐々に正直になっていく。信頼が置ける様になってくる。すなわち、現実に正面から向き合う様子が描かれている。」

更に、怖い話を例をとって話されていましたが、

「第二次世界対戦中、フランスでは、強い強制があったわけでは無いにも拘わらずナチスドイツへの多くの追従があった。人々は疑心暗鬼になっていた。戦後、ドゴールはフランス国民は”全員が”勇敢にナチスに立ち向かったと信じている状況を作り出した。そうする以外に国をまとめる方法はなかった。」

「現在に至る社会でも状況は変わっていない。ルワンダの状況、南アフリカアパルトヘイト、ユーゴの状況、いたるところに”葬り去られた記憶”がある。」

最初この番組を見た時には、この件は、ほとんど印象に残っていませんでしたが、結構、この本のことを触れられていたのを認識しました。

シャレになりませんが、僕は自分自身の記憶がすぐに消えてしまっていることにかなりの危機感を感じました。いや、これは記憶以前の問題でそもそも番組を見ても何も頭に入っていないのかと一層、不安になりました。これもインパクトの強いこの小説の影響を受けたからだと思いたいのですが。

 

 

講演での彼の解説を説明するとエラク理屈っぽい小説のような印象を与えることになるかと懸念しますが、この小説自体は全くそんなことはありません。素晴らしいファンタジーであり、老夫婦のラブストーリーであり、そして、サスペンス小説です。冒頭に書いた通り、最後の最後までハラハラドキドキ、最後の最後に何が起こるのか!。これは今から読まれる皆様の為に控えさせて頂きます。

最終章に近いところは東京から名古屋に向かう新幹線のなかで読んでいました。あと、わずかで読破できそうというところで名古屋駅に到着してしまいました。読むのを中断するのが残念なので、そのまま駅構内の喫茶店に突入して読み終えました。多分、30-40分ほどの時間だったと思いますが、時間の経つのを忘れておりました。

 

 

 「辛うじて記憶が残っている間に息子に会いたい。記憶がなくなったらお互いの愛も消えていくのでは」と心配しつつ息子を探す旅に出る二人。強い絆と愛情で結ばれている年寄りのご夫婦が主人公です。寓話も至る所にちりばめられています。島への渡し船に一緒に乗船するためには船頭さんの質問をクリアーする必要があります。クリアーしなければそこで夫婦は別れ別れになってしまいます。愛情、信頼が問われます。この話が最後までサスペンス的な緊張感を持たせています。

 

 

原題は「the buried Giant」。英語を逐語訳すれば「埋葬された巨人」とか「葬られた巨人」になろうかと思いますが、「忘れられた巨人」と訳されて小説のタイトルとなっています。地中に葬られ忘れられていた巨人(思い出したくない嫌な記憶)が動き出す恐怖。読みようによっては、ドラゴンの魔法をかけられていること自体を忘れてしまうようになることの恐ろしさ、を言ってるのかも知れませんねえ。

 

 

イシグロさんは、「何故、小説なのか」に大変に拘っていますが、小説の手法として「記憶」というものを意図的に駆使して物語を進めているそうです。演劇、映画・テレビのドラマ等々では表現出来ないモノ、紙の上・小説でしか描けないモノ。それが、記憶という表現方法だと。30年前の記憶と10分前の記憶を織り交ぜて物語を展開していく手法であるとおっしゃってます。それにしてもイシグロさんの素直な語り口には改めて驚いてしまいます。自分の小説の云わばノウハウ=イメージの育て方、小説の構成についての手法、書き方等々、手の内を全く平気ですべて曝け出しているような感じです。これが彼の言う「思いを伝える、感情を分かち合う」ということにも繋がっているのでしょうね。

 

 

久しぶりにbook offに行きました。以前、行った時には、イシグロさんの本を見つけることが出来なかったのですが、この日は、”ハヤカワ”のコーナーが目に入ったので探してみると置いてありました。”そうや、イシグロさんは外国人作家に属しておるんだわ”。以前、僕は日本人作家のア・イ・の欄を探していたのでした。ホンマ、アホですねえ。

置いてあった三冊を買ってきました。「遠い山なみの光」「日の名残り」「わたしを離さないで」。当分、電車に乗っている時間が短く感じそうです。

 

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良い本を読んで気分充実。 久しぶりの二品の料理。

①もやしを食べる為の焼きそば。ニンニク・しょうがをたっぷり。お肉は明宝ハムと合いひき肉、ピーマン・人参・玉ねぎ、油揚げと竹輪も。麺の味付けは醤油とお酒とお酢。最後に胡椒と唐辛子で辛めの味付けに。塩は使わず。

②アボガドサラダ。キュウリ、玉ねぎ、らっきょ漬けを全て微塵切りに。アボガドも同様に細かくカット。

アボガドは皮を剥くのが邪魔くさそうに思っていましたが、先日、カミさんから手ほどきを受け簡単だと理解出来ました。今、アボガドの皮むきにハマっています。撮影技術の拙さが残念。2018年5月29日撮影。