クルルのおじさん 料理を楽しむ

庖丁を研ぐ

 おじさんに研いで頂いて、生まれ変わった庖丁です。小出刃と柳刃。本文をご参照ください。2019年3月26日、撮影。

 

 

このブログで庖丁のことは何回も書いていますが、2018年8月20日付けの『京都、送り火』で一大決心をして「有次」の庖丁を買ったことを記載しました。昔から親しくお付き合いしている方がそれを読んでくれて、”使っていない庖丁がある。立派なものだから使ってもらえるなら譲ってあげる”と本当に立派な庖丁を頂戴したのです。出刃、小出刃、柳刃(刺身)、薄刃(野菜)の四本セット。鞘がついていて銘が刻まれている由緒ありげな庖丁です。ただし、かなり長い間、手入れされていないのでサビが出ており、また、若干ながら刃こぼれがある状態でした。僕は自分で包丁を研ぐワザを持っていないので、使ってみたいと思いつつも、そのまま神奈川の自宅でお蔵入りとなっていました。

 

 

名古屋の隠れ家から最寄りの駅に出る途中に昔ながらのタバコ屋さんがあるのですが、二ヵ月ほど前のある日、そのタバコ屋さんの駐車場(車は置いていなくて、鉢植えの植木、花をキレイに飾ってあるスペース)で庖丁を研いでいるオジサンがいるのを見かけました。タバコ屋のおじさんと世間話をしています。「有次」を買って以来、庖丁を研ぐことには関心を持っていましたので、立ち止まって研ぎの作業を見ながらオジサンたちの会話を聞いていました。月に一回ほどはこの場所に来て”庖丁研ぎ”をしているらしい。若干の心付け程度の料金は取っているようですが、ほぼボランテイア活動として庖丁研ぎをされているような印象を受けました。僕と同じような年回りの様子。急いでいる時ではなかったので僕も世間話に入れてもらいました。

 

 

本職は刃物屋さんではなくて、電器会社(電話会社だったかな?)に勤務されていた方でした。とにかく、昔から刃物・庖丁を研ぐことが大好きで、周りから変わった趣味を持っているヤツだと言われてきた由。退職後に縁があってこのタバコ屋さんと知り合い、この場所で庖丁研ぎをやるようになった。

「料理をするのが好きだから、庖丁を研ぐのが好きになったのですか?」とお聞きしたら「自分で庖丁を使って料理をするのが好きなわけでは無い」とのことでした。”確かに変わったオッサンや。よおやっとるなあ。”と思いましたら、

「最近、世間では庖丁を研ぐ人が少なくなってきている。自分が庖丁研ぎを引き受けると、近所、地域の方が大変に喜んでくれる。それが嬉しいから続けている」とのこと。近頃では、かなり遠方の方が話を聞きつけ、庖丁を持参して研ぎのお願いに来たりするようにもなっている由。確かに、横の棚を見ると結構な本数の庖丁が新聞紙に包んで置いてありました。

「皆さんが”(やって頂いて)助かります!”と喜んでくれるのが励みになります。自分の居場所がここにあるようにも感じられますねえ」と大変に素晴らしいコメントを頂きました。

 

 

3月の庖丁研ぎの日は、僕が隠れ家にいる日でありました。事前に自宅から庖丁を隠れ家に持って来ておいて、その当日には開始早々に四本の中から二本の包丁を持参して研ぎをお願いに行きました。幸い、他に人は居なかったので、おじさんの斜め横に座り込んで見学しつつ研ぎの勉強をさせてもらいました。約一時間、メモを取ったり、おじさんの許可を得てスマホで録画したり、真剣に家庭科実習の授業を受けたと言ったところです。

 

 

和庖丁は、右手で持って構えた時、上から見て右側が表です。表面は湾曲しています(知りませんでした)。その湾曲の度合いに応じて、おおよそ、1/3づつを均等に研いでいく。手前から先に押し出すように研ぐ。手前に引き戻す時は砥石に滑らせているだけ。特に初心者は押す時にだけ研ぐことを心掛けるべし。

このおじさんの流儀で、初めて研ぐ包丁は荒研ぎ(あらとぎ)に時間をかける。研ぐ人のクセがありバランスが悪くなっている庖丁が多いので、それらはその時点で修正しておく必要がある。また、錆が出ていたり、刃こぼれが酷い物も、荒研ぎを丁寧に行う必要がある(恥ずかしながら僕の持参した庖丁がその状態でしたので丁寧に解説してくれたように思います)。しばらく研いで”カエシ”が出てきたら裏を研ぐ。裏面はフラットです。砥石全体を使って。表と違って押すのではなく、手前に引いて研ぐ。裏はあまり長い時間、多くの回数を研ぐものではない。無駄に鋼を減らすことになってしまう。指先がセンサーである。また、研いでいる時の砥石と庖丁の抵抗の強弱をよく感じながら研ぐ。危険防止のための注意点等々も親切に説明してくれました。最も、当日、ご本人は不注意で指を切っており「これが悪い見本です。たまには猿も木から落ちます。トホホホ」とニコニコとコメントしていました。結構、剽軽なおじさんです。

「キレイに研げた時には、抵抗がスッーと無くなることを感じられるようになる。自分はこの時の達成感が堪らなくスキで、それで庖丁研ぎをやっているのかも知れない、云々」と。本業の職人さん以上に、職人さん気質を持たれた含蓄のある教えの言葉でありました。

  

 

荒仕上、仕上げをして頂き、あっという間に出来上がり。新聞紙を取り出し、試し切りです。スーッと切れるのに驚いたのですが、ご本人は「いやいや、これではお金を貰うレベルではないのです」と。もう一度、仕上げの研ぎをされました。改めて、新聞紙を取り出して試し切り。「音が違いますよ」と。確かに、最初の時は若干ザラザラと切れたような印象を受けたのですが、今回は、それこそ音も立てずに庖丁の重さだけでスーッと切れていく様な切れ方です。再度、驚き。”職人さんのプロのワザや!これは凄い!”。隠れ家に戻り、写真を撮りました。冒頭の写真です。

 

 

庖丁の鋼は、柔らかい程よく切れるそうです。その代わりチビルのも早いと。有次さんの話をナルホドと思い出しました。 

 庖丁を一本、研ぎ潰すぐらいの気持ちで研いでみればコツをつかむことは出来るそうです。砥石は、ホームセンターで売っているモノで、とりあえずは十分とのこと。最低、二本は必要。荒研ぎと仕上げと。出来れば、三本は持っておきたい。「ご自分でやってみて上手くいかなかった時には、ここに持ってくれば、キレイな状態に戻してあげるから、心配しないで練習してみてください」と誠に温かいお言葉。この日に持参しなかった残りの二本、出刃と薄刃を自分一人でトライしてみようという気持ちに”今は”なっているのですが、果たして出来るものかどうか・・・?。

 

 

「この包丁は良い庖丁ですよ」と最後に褒めてくれました。「吸い付くように切れるはずです。この柳刃を使えば美味しく刺身を引けます」とのこと。”吸いつくような切れ味”というのは、僕も有次で感じるところで合点がいくのですが、それは、専ら、肉・野菜を切っている時の感触なので、やはり刺身を引くというのは、庖丁もさることながら、腕前・技量の差が大きいのではなかろうか。相変わらず、魚は捌いたことが無い、全くの素人の料理大好きおじさんなので、不安が先に立ちます。

思い出して、初期のブログ、2017年6月11日付け『庖丁』を見直しましたら、ナント偉そうに、庖丁の持ち方、握り方を解説していました。いま読み直すと恥ずかしい限りです。また「有次と庖丁」の本の紹介をしていて、「割烹=割は庖丁で切る、烹 は煮る」ということだと自慢して記載していました。「魚を捌いて、刺身を引いて」は今でも、やったことがありません。今度こそ、トライしてみよう。 それにしても、何種類もの庖丁を用途別に持っているとは、改めて日本料理の奥深さと繊細さを感じております。

 

 

こんな事を記載していて、また一年経過しても、やはり、柳刃包丁バゲットを薄く切る時に使っているだけだったら僕は一体どうしたらよいでしょうねえ。

 

 

 神奈川の自宅の桃の花がほぼ満開です。お世話になっている先生が無事に赤ちゃんをご出産!。本当にキレイな女の子。最近では珍しいと思いますが「子」を付けられ「桃子」ちゃんと名付けられました。ついつい桃の花の写真をメール添付してお送りしてしまいました。2019年3月28日、撮影。