クルルのおじさん 料理を楽しむ

『China Syndorome』

 

久しぶりに千種区の図書館に行きました。留守宅でプランターに夏野菜を植えたので、チャンと実を付けてくれます様にと栽培のハウツー本を探しに。「コンテナで育てる野菜とハーブ」という格好のタイトルの本を見つけました。食べ物・料理・健康関連の書棚をプラプラしていましたら、掲題の本を見つけました。

 

 

『史上最悪のウイルス---そいつは、中国奥地から世界に広がる』上・下巻、文藝春秋社発行。著者は、カール・タロー・グリーンフェルドさん、1964年、神戸生まれの方です。お母さんが芥川賞作家(米谷ふみ子さん)、お父さんがアメリカ人でアカデミー賞にノミネートされた劇作家。原書タイトルは『China Syndorome』、2005年の春にニューヨークで出版。日本語版は2007年1月第一刷発行です。

 

 

SARS」騒ぎは、2002年の暮れから2003年にかけてのことでしたが、著者は、当時、香港に拠点を置く雑誌「タイム」アジア版の編集長で香港に赴任中であったそうです。2002年11月から2004年1月までの出来事を編集長・記者として丹念に追いかけたノンフィクションです。

本年の新型コロナ騒ぎの折に、かつてのパンデミックの事が何度も詳しく報道されていますが、「SARS」のことは ”大騒ぎしたのは覚えているが、ほとんど気が着かないうちにいつのまにか収束していた” 程度の印象しかありませんでした。

 

 

本を手に取ってパラパラと頁を捲った時には、”エッ、「SARS」騒ぎはそんな昔の出来事やったんや”と自分の記憶のエエ加減さに驚くと共に、”そういえば、この本のことを評価していた書評があったなあ”と微かに記憶が蘇ったりして、野菜栽培のハウツー本と一緒に借りてきました。首都圏で連日100人超の感染者が出ているし、自分では注意していると思っているモノの、ややコロナ騒ぎに馴れてきていて、緊張感が無くなりつつあると感じていた時でしたので、もっと最近のことと思っていた”昔”の「SARS」騒ぎを改めて今の状況下で読んでみようかと。

 

 

上下で500頁近い力作です。大変に面白かったです。「SARS」は、結果的には発生から8カ月ほどで収束。WHO調べでは、26か国・3地域(香港、マカオ、台湾を指しています)に広がり、感染者8,400人、死者876人ですから、今回の新型コロナ騒ぎとは比較になりません。が、今回の新型コロナ騒ぎに関連しそうな、背景?を改めて考えさせられるところが多々ありました。

 

 

本の構成は4部に分かれています。「SARS」対策で重要な役割を果たした香港大学のウイルス学者さん、この本の主人公の一人ですが、彼のウイルスに対する調査研究のスタンスに沿ったものです。第一部、それはなにか?、第二部、それはなにをするのか?、第三部、それはどこからくるのか?、第四部、それをどう殺すのか?。この切り口で構成されているので、このノンフィクションが高級の社会的サスペンス仕立てに出来上がっているように思いました。構成力と共に筆者の筆力が読み物としての面白さを倍増させていると思います。相変わらず日本語の邦訳タイトルは仰々しいと思いますが、これくらいのネイミングをしておかないと読者の注意を引かないのでしょうね。邦訳タイトルが「チャイナシンドローム」であれば僕も手に取っていなかったかも知れません。

 

 

最初の感染は、2002年の暮れに、すでに始まっていたそうです。香港を抱え込むようにしている中国最南部の省、広東省で感染が拡大していきます。時代背景が詳細に記載されています。イラク戦争が風雲急を告げる時期であったこと。

中国では経済成長が軌道に乗り、食料の不足を心配する暮らしから美味しい料理を楽しむ時代に差し掛かろうとしていた時代。広東料理は、所謂、ゲテモノ喰いで有名ですが、「野味の時代」と形容されています。美味しいもの、珍しいモノを求める人々が増えてきた。深圳の東門市場と言うのは、中国の野生動物市場の最大手の一つだそうです。生態学者に言わせると地球上には3千万種の動物がいるそうで、それぞれが一つ以上のウイルスの宿主となっている。当時、4千種のウイルスが既に知られており、そのうち150種は動物からヒトに感染するそうです。まだ、知られていないウイルスが無限に近い位いるんですねえ。

野生動物市場がウイルスにとっては新しい宿主を見つけ出す無尽蔵のホームのようなものだとの記述が大変に説得力を持っています。「SARSコロナウイルス塩基配列RNAリボ核酸ウイルスであることが後日発見されていきますが、このウイルスは、増加するのが早く、かつ、突然変異が多い=新しい繁殖のための宿主を見つけ出す。このウイルスのホームが、世界でも有数の(決して衛生状況が良いとは言えない)過密都市のど真ん中にあったことが、SARSウイルスが発現した原因のようです。

 

 

感染は、広東省から香港に広がり、さらに、北米、ベトナムシンガポールに拡大して行きますが、この過程での最大の問題点は、中国政府・共産党・官僚の隠蔽体質。広東省では奇病流行の噂が広がり、香港では最先端の医療機関、医師・研究者が原因究明に乗り出しているにも関わらず、中国当局=衛生局は情報出し渋りを続けます。更には、「この病気はそれほど心配する恐れはない!」と嘘の説明まで。現場で対応に当たった多数の医師・医療関係者が感染し重篤な状態に陥ったのは、情報共有が全く出来ていなかったからと指摘されています。

 

 

訳者の方が、訳者あとがきで纏めていますが、「(SARSの)生みの親が、高度成長で産業化された野味産業・野味文化、野生動物市場だとすると、育ての親は、中国共産党官僚機構の情報管理体制=抜きがたい隠蔽体質である」と。

 

 

SARSの症状も詳細に記載されています。本から抜粋しますと「高熱とからせき---呼吸が乱れ、血中酸素濃度が低下、胸部Ⅹ線写真には白い影(ホワイトアウト)が映る。生命を維持するのに必要な最低限の酸素を維持できず、意識混濁、死に至る」と。生々しい詳細な記載が随所に出てきます。現在のコロナの重篤化した症状と同じ。怖いです。

 

 

2003年3月15日は、中国・全国人民代表会議(所謂、全人代)で、この年は、国家主席江沢民から胡錦涛に変わる政権移譲の年度でした。政府・共産党にとっては最大行事で、ひたすら中国が安泰であることを世界にアピールする機会です。パンデミックに繋がるかも知れない感染症が蔓延しているなどと死んでも言えない。3月には北京でも感染拡大していたそうですが政府機関からは一切公表されなかった、いや、感染者がいることも否定されていたそうです。

 

WHOは、現在では、中国寄りだとトランプ大統領から攻撃されていますが、当時は、中国当局に原因究明、情報公開を厳しく迫っていたことが生々しく記載されています。SARSの名称も、それまで「非典型肺炎」と訳の分からない略称が使われていたものを、WHO本部(ジュネーブ)の医師がこの感染の怖さを世界に認識させるために、Severe(重症) Acute(急性) Respiratory(呼吸器) Syndorome(症候群)の頭文字をとって「SARS」と名付けた由。

ただし、特定の国、地域に紐つかない名称に配慮したはずの「SARS」ですが、結果的には、Special Administrative Region の頭文字「SAR」と同一になってしまっていた。「SAR」とは特別行政区=香港のことです。

 

 

2003年4月には感染者2000人超、死者240人超となっていたそうですが、中国国内で、一人の医師が内部告発に立ち上がり、それがきっかけとなり、タイム誌を初め海外メデイアが報道。内部告発の真贋を見極めるための取材活動ぶりが生き生きと描写されています。中国の新体制は旧勢力との権力闘争の一つとして、大々的に国家を挙げてのSARS撲滅キャンペーンを行うことを決定し、今回も見られたような独裁体制の国家でなければ出来ないようなやり方・手段で強引に抑え込んだそうです。

 

前後して、4月には、カナダのブリティッシュコロンビア大で、「SARSコロナウイルスが特定されます。従来のコロナウイルス科のウイルスは軽い風邪程度の流行感染病と認識されていたものが、動物に感染してやっかいな突然変異を起こしたモノらしいと。

 

また、前述の香港大学のウイルス学者さんの活躍で、ヒトへの感染は「ハクビシン」の体内のウイルスによるものということが解明され、中国では野生動物の販売が禁止されることに繋がったと。ここまでで、「それはなにか」「それはなにをするのか」「それはどこからきたのか」が明らかにされたのですが、最後の「それをどう殺すのか」にたどり着く前に、このウイルスの季節的な特性からなのか、7月以降には一般市民の新規感染者は出なくなったそうです。

 

「ウイルスを制圧したのに成功したと言えるのか?」「このウイルスが感染力を初めから欠いていただけなのか?」「季節の変化が影響したのか?」この本のなかでも明らかではなさそうです。SFサスペンス風に言えば、ウイルスが回りの様子を見て、チョットわが身を潜めたと考えられるのかも知れませんね(僕の妄想です、念のため)。

 

 

現在の状況に繋がっているかも知れないと思ったことです。

「SAR」収束後、中国政府は、2003年8月には野生動物の販売禁止令を解除しました。その後の中国経済の急成長もあり、益々、珍しいものを食べたい人々は増加しているそうです。また、この頃=2003年7月ごろから香港を対象にした「反政府活動法案」の動きが出ており、香港ではそれに反対する抗議活動が激しくなってきたことが記載されています。本年6月30日に、香港への「国家安全法」が成立・施行されましたが、その最初の動きがこのころのことだったようです。

そして、「SARS」収束後、中国は、透明性を欠いたスタンスを変えることなく(中国では、疫病の集団感染情報は国家機密に属する、という考えとか)、WHOとは”協調姿勢を明確して対応する方針””に転換していった由です。今回の新型コロナ騒ぎでの中国の初期対応、および、それに対するWHOの評価に対して、トランプ大統領は強い非難をしていますが、中国側は「SARS」騒ぎの時から、この時の来るのを見越してWHOとの協調姿勢を構築していたようにも感じ取れました。

 

 

 7月8日の日経夕刊では、とうとうアメリカがWHO脱会を正式に国連に通告したことが報じられています。また、驚いたことに同日の記事では、ブラジルのボルソナロ大統領が新型コロナウイルス検査で陽性反応が出たことも報じられていました。彼は65歳。陽性反応が出た後も「コロナはただの風邪」と公言続け、コロナ対策を実質的には何も行わず経済活動を維持するとの主張を継続しているようです。中国の有り様は別にして、西側の影響力の大きな国家の指導者も大変に個性が強い方々が増えたようで、今回のコロナ危機で世界の混迷はますます深まることになりそうですね。

 

 

首都圏では、東京では6日連続で100人超の新規感染者となるなど、埼玉、千葉、神奈川での増加も懸念されています。政府は、”感染が増えているのは、重篤化しない若者に新規感染が多いから”であり、また、”医療設備に対応余力・能力があること” を主な理由に緊急事態の宣言は検討していないとか。経済の再生を図りたい(財政の限界もあるでしょうから)ということでしょうが、若者の感染が増加して、それが、感染したら重篤化する可能性の高い年寄りに広がっていくことに対しての懸念・対応策等々はぜんぜん聞こえてこない。

4月に緊急事態を宣言した時の、"ほっておくと級数的に感染が拡大する" と言う説明は何だったんでしょうね。対応が一貫していなくとも、その時々に真摯な説明をするのが行政の責任だと強く感じてしまいますねえ。説明になっていない!、相変わらずイライラが募ります。

 

「若者は感染しても重篤化しないから大丈夫です」「年寄りは自分で責任もって感染しない様にしてください」というのが政府・行政の見解のように聞こえます。早くワクチン開発が進むことを祈りたいです。または、「SARS」の時と同じように、ウイルスが自ら身を隠してくれることを期待したくなりますねえ。

 

 

 

おまけです。 

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農園に水遣り当番で行きました。前々日、前日が雨だったので、収穫に精を出しました。久しぶりの青空の下、ナス、ピーマン、シシトウを収穫しました。2020年7月2日、撮影。

 

   つかのまの梅雨の晴れ間に茄子たわわ   孔瑠々

 

茄子は季語(晩夏)だそうで、季語のダブりがダメなんでしょうね。どう詠めばよいのかまだ分かっておりません。トホホ。「NHK俳句」は別途また記載したいと思ってます。

 

 

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右、久しぶりに夏野菜カレー。かつて師匠から”太陽の恵み”とネーミングしてもらいました。味に切れがなかった、やや残念。ナス、カボチャ、ピーマン、しし唐、トマトを大量に。頂いた名古屋コーチンを使って。カレー粉とルーを両方使いました。2020年7月7日、料理と撮影。

左、留守宅でのプランター。隠れ家から育て方を云々する以前に、既に、キュウリが実っていました。ナント早いこと。これ以降の処理・対応で、一苗からどれだけのキュウリが収穫出来るかの差が出るはずなのですが??。2020年7月7日、カミさん撮影。