クルルのおじさん 料理を楽しむ

六月、読書の夏

 

6月29日に東北南部が梅雨明けしたそうです。最も短い梅雨の期間、最も早い梅雨明け、6月の梅雨明けは初めてとか。これで東北北部を除き日本全国、梅雨明けとなりました(北海道は梅雨が無い)。東海・名古屋も27日には梅雨明けしていますが、とにかく暑いですね。外出する時には帽子を被りマスクを外していましたが、この二三日は更に水筒を準備して日傘もさすようにしました。それでも暑い。猛暑、酷暑。日差しが一気に強くなっているような。一歩外に出ただけで外気が体温よりも高いというのを実感します。でもまだ6月。 ”この暑さ六月なのにナンヤこれ” とボヤきたくなっています。

隠れ家のトイレにNHK俳句・名句カレンダーをピンで刺して飾ってありますが、これが片面6カ月。”今年もはや半分終わるのか” と一日早く裏返したら7・8月の写真が酸漿市(ほうずきいち)の涼し気な写真でした。虚子の句が載せられていました。

 

   夫婦らし酸漿市の戻りらし   高浜虚子

 

 

NHK俳句です。前回、記載しなかったのでちょっと溜まってしまいました。相変わらず僕の備忘録として書いています。お付き合い頂ければ嬉しいです。

 

六月の第二週。選者は井上弘美さん、司会は武井壮さん、ゲストは引き続きマツモトクラブさん。今週の兼題は「南風」。「みなみ」と読むのが基本のようですが「みなみかぜ」「なんぷう」「はえ」とも読むそうです。さらに「南吹く(みなみふく)」「大南風(おほみなみ)」も。弘美先生からマツモト生徒に難しい問題が出されていました。

「黄雀風」「雁渡し」「鰆東風」「虎落笛」、それぞれ風の名前の季語なのですが、いつの季語か?。正解は末尾に記載しておきますが、僕は一つしか分かりませんでした(マツモトさん同様に読むことも出来ない)。達人クラスの難問かと。

特選三句です。

一席   フェニキアの舟の封緘南風

二席   南吹く丸太作りの小学校

三席   海鳥の両翼に南風惜しみなく

添削コーナーで素人には参考になる指導がありました。「風は吹いているだけで良い」=余分な関係付けはやらない。例として、

投句   南風に誰か奏づる手金琴

添削   南吹く遠く誰かの手金琴

なるほど、と思います。

 

第三週、選者は星野高士さん、司会は武井壮さん。ゲストは声優・歌手の松本梨香さん。今週の「会いたい俳人」は中村草田男。代表句が紹介されていました。

   降る雪や明治は遠くなりにけり

   萬緑の中や吾子の歯生え初むる

この「萬緑」の句で萬緑が季語になったそうです。今週の兼題はその「萬緑」。特選三句です。

一席   万緑や鳥も獣も声豊か

二席   万緑や途方に暮るる烏二羽

三席   無限とはこの万緑のあふれやう

番組の中では草田男が自ら句を読み上げている昔の録画が放送されたり、声優の松本さんが句を読んだりしていました。句を声に出して読むというのは良いことだと感じました。

 

第四週、選者は堀本祐樹さん、司会は武井壮さん。ゲストに料理家の土井善晴さん。今週のテーマが「料理」なので土井さんの登場となったのでしょう。早速に料理の句が紹介されていました。

    そら豆はまことに青き味したり  細野綾子

土井さんも「そら豆」の句をご披露。

   そら豆に背中を押されポンと出る   善晴    

そら豆の皮を剥く時の極意が、そら豆の背中を押すのだそうです。そうすると気持ち良くポンと出てくれる。それを踏まえて作句したと。「そら豆に」とするか「そら豆は」とするか迷ったそうです。さすが料理人。

投句を堀本さんが添削したものです。ポイントは「類想を避ける」こと。

投句   妻を師に男の料理雲の峰

添削   妻を師に料理をかしや雲の峰

僕は「男の料理」が投句者のキーワードかと思いましたが、もはや類句、類想のようです。勉強させられます。今週の兼題は「料理」を夏の季語で読むこと。

面白いと思った句です。

   一椀の粥茄子漬に助けられ

   夏料理に野暮な栄養論議かな

   ゆふぐれの余白のやうな冷奴

特選句です。

   鱧料理楽しみにして母の逝く

テーマが良かったからか良い句が多くあったように思いました。「鱧料理」のウンチクについて土井さんの出番。「鱧は梅雨の水を飲んで味がのってくる」「トロ箱に載せられた600-700gの鱧、これを”つの字鱧”という」、関西弁が絶好調でした。選者の堀本さんもいつの間にか関西弁イントネーションに。関西弁、恐るべし!。

「それ豆」の句もそうでしたが「つの字鱧」も五月末の「歳時記食堂」で宇多喜代子女将が取り上げていたテーマと被っていました。偶然でしょうが土井さんのおしゃべりと比較できてまた一層に面白かったです。

最後に堀本さんがゲストの方のエピソードを俳句に纏めるコーナーがあるのですが、今回は土井さんが修業時代の話をしていました。それを堀本さんがまとめた句、

   土はらひ齧る独活こそ目を見張れ   堀本祐樹

土井さんのエピソードの詳細はあえて省きますが、その気持ちが上手く句に仕立てられていると感じました。さすがプロかと(齧る=かじる、独活=うど、です)。この句だけを読まれて土井さんのエピソードが句から浮かんでくればホンモノでしょうね。 

  

 

日経・俳壇、6月25日には、ウクライナ句は取られていませんでした。これも戦争への「慣れ」かも知れません。怖いです。

 

 

いつもお世話になっている名古屋市千種図書館は折に触れて古くなった本を「リサイクル図書」として来場者に無料配布してくれます。先日、貸し出しを頼んでいた本の準備が出来たとの連絡を頂いたので取りに行ったのですが、それがリサイクル図書の配布日に当たりました。プラプラ見ているといつもよりも面白そうな本が並べられていたので数冊頂いて帰りました。

サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」、コーンウエルの検死官シリーズ15冊目の「異邦人」、米朝さんの「桂米朝句集」、そしてもう一冊、ついでに取った本。「やつあたり俳句入門」、中村裕さん著。借りた本は三浦雅士さん著の「スタジオジブリの想像力」(講談社、2021年第一刷)で、今回はこの本を紹介をしようと思っていたのですが、おまけで取った「やつあたり俳句入門」が予想外に面白かったので、こちらを先に紹介します(今回のNHK俳句にも多少、関連あるし)。

 

 

「やつあたり俳句入門」、中村裕さん著。文春新書、2003年9月第一刷。中村さんは1948年お生まれ、ライター、フリーランスの編集者。また俳人として三橋敏雄に師事されていた方。出版社の宣伝文句は

「たった十七文字の世界がなぜこんなに面白いのか。芭蕉、子規、虚子たちの人間くさい謎にビックリしながら俳句を作りたくなる一冊」

と当たり障りのない文句で紹介されていましたが、内容は端折って言えば高浜虚子批判、ホトトギス世襲家元制度批判。

「俳句に有季定型という枠をはめ、花鳥諷詠、客観写生という指導原理を導入して俳句を人に教えることが出来る『お稽古事』『お習い事』にして家元としての収入を確保した」「そのことが俳句本来の姿を歪めてしまった、詩のエネルギーを俳句から奪ってしまった」というもの。前述したNHK俳句の虚子はモチロン、中村草田男もまな板に載せられています。

かなり過激な批判があり”これは独断と偏見過ぎる”と思うところも多々ありますが、歯に衣着せない論評は面白く、また、特に後半の新興俳句運動、俳人についての件は興味深く読むことが出来ました。目次がこの本の概要を知る参考になると思います。

●はじめに

●第一章 俳句の出自と芭蕉

●第二章 子規の俳句革新

●第三章 経営者・虚子の功罪

●第四章 秋櫻子、誓子の影響

●第五章 新興俳句運動

●あとがき

虚子については第三章「経営者としての虚子」「家元制としての結社」のところでは厳しく非難していますが、一方「俳人としての虚子」の件ではその俳句を高く評価し、多くの優秀な弟子を育てたことは虚子の功績として認めています。

第四章以降が圧巻です。秋櫻子が昭和6年ホトトギスを離脱、それが後の新興俳句運動の起爆剤に。昭和12年に入ると日中戦争が勃発、この時代の流れが複雑に俳界にも影響し、昭和15年には新興俳句弾圧事件(京大俳句事件とも)が起こった。中村さんが師事した三橋敏雄は、渡邉白泉、西東三鬼に師事していたそうですが、三鬼はこの事件で治安維持法違反で特高に検挙され、それ以降は執筆停止処分になり敗戦まで作品発表の道を閉ざされたと。それぞれの俳人の名句も多数鑑賞されており、「やつあたり俳句入門」なんて(チャラけた様な)表題にしない方がよかったであろうと思いました。本のタイトルは出版・編集側が付けるらしいですから、中村さんはやや不本意であったかもしれません。近代俳句の歴史には全く無頓着であった僕には大変に刺激のある一冊でありました。それにしても俳句って色々な意味で面白いですねえ。改めて認識出来ました。

 

弘美先生の質問の答えです。

「黄雀風」=「こうじゃくふう」=夏の季語。陰暦五月に吹く東南の風。

「雁渡し」=「かりわたし」=秋の季語。これは正解出来ました。但し、「初秋から仲秋にかけて吹く北風」という意味は知りませんでした。

「鰆東風」=「さわらごち」=春の季語。「東風」の傍題とか。

「虎落笛」=「もがりぶえ」=冬の季語。虎落=もがり、は竹の柵、竹垣のこと。それが冬の烈風に吹かれて笛のように音を立てること。全く知りませんでした。

 

 

おまけです。鯱城学園"陶芸科"26期生の作品展。名古屋市市民ギャラリーで開催されていました。

 

     

さすがに陶芸(本)科の先輩諸氏の作品展。プロのような作品が多数展示されていました。2022年6月25日、市民ギャラリーにて撮影。

陶芸クラブではその後、タタラ作りの鉢、同じくタタラ作りの筒花生を作りました。いよいろ来週は「施釉の基礎」を教えてもらいます。うまく焼き上がるところまでいってくれるかしら!。

市民ギャラリーでの作品展は”陶芸科”がやるものと思っていましたが、”陶芸クラブ”卒業生の方々も作品展をやるそうです。「楽陶クラブ・第60回作品展」、7月5日から10日まで。同じく名古屋市民ギャラリーで開催されます。ご近在にお住まいでお時間がおありの方は是非、足をお運びくださいませ。

 

今日のお昼のニュースでも「全国で危険な暑さが続く」「外出は避ける様に」「名古屋でも39度に、明日は40度の可能性も」とのこと。コロナ感染もまた増加傾向になっています。熱中症患者が急増して救急搬送が逼迫と。

今日で6月が終わります。明日からはもう今年も後半戦に入ります。コロナにも猛暑にも負けない様に凌いでいきたいものです。皆さまも引き続きくれぐれもご自愛のほど。