クルルのおじさん 料理を楽しむ

小山実稚恵さん・讃歌

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 名古屋市東山動植物園の「紅葉ライトアップ」。都会のど真ん中で紅葉ライトアップを楽しめます。今年は特に紅葉が鮮やかとか。2017年11月19日、撮影。

 

 

初めて小山実稚恵さんのコンサートを聴いたのは今年(2017年)の4月でした。宗次ホールの10周年記念コンサート。当時は、恥ずかしながらそれほど有名なピアニストさんとは存じておらず、一緒に行った会社の仲間=Kちゃんから説明を受けて説教をされる始末。このKちゃん、一時はピアニストを志したレベルの弾き手なので、そういう方からすると、”この小山さん”を認識していないことが信じられないという驚きの様子。僕はややしょげ込みながらも ”そんなこと言われても知らなかったのだからしょうがないやろ。何か文句あんのか” と心の中で嘯きながら、気持ちを落ち着かせておりました。それも一瞬のこと。演奏が始まって、本当にビックリ。それまでに何回も宗次ホールでピアノ演奏は聴いていたのに、全く、音が違う。ピアノの音を表現するのに適切かどうか不安ですが、何か「ドカーン!」てな響き。弾いている小山さんの集中力が凄い。ゾーンに入っているというのはこういう状態を言うのだろうと見ていて(聴いていて)感じられる気配です。一方では、不思議なくらいの平静さ。曲の合間に、拍手への返礼のお辞儀をされますが、爽やかとしか言いようがない表情。あれだけ迫力のある演奏がウソのような平静さ。きっと脈拍数も全く変化が無いものと思われます。

アンコールに三回も反応してくれました。義理のアンコールでは無い、これがアンコールだ。正に演奏者と聴衆が一体になっているという空気が充満していました。

 

終了後、ホールでCD即売のサイン会。Kちゃんは、記念のCDを買って憧れの小山さんのサインを貰おうと。宗次オーナーさんがいらしゃって小山さんをエスコートしていたので、サイン待ちの列にならんでいるKちゃんと小山さんとの写真を撮らせてもらうことをお願い、快くご了承を頂きました。Kちゃんは憧れの小山さんとの2ショットを撮影してもらい大満足。僕も今までのコンサートの中で間違いなく一番感激したコンクールでありました。

 

 

このことを親しくお付き合い頂いている地元のピアニストの先生に話したところ「我が偏愛のピアニスト」(青柳いずみこ著、中央公論新社)という本を貸してくれました。青柳さんというのは、現役のピアニストであり、かつ、文筆家。ピアノ、音楽に関するイロイロな執筆をされています。この本は青柳さんの独断=偏愛で選んだピアニストとの対談集で、その一つに小山さんが登場していました。

青柳さんに言わせると、「 小山さんはピアノ留学経験無しで、チャイコフスキーショパンの二つの国際ピアノコンクールに入賞した『純国産の世界的ピアニスト』」。また「ステージに強いピアニスト」との紹介をされています。全く、同感。あの集中力、聴衆を引き寄せる力は凄い。更に、小山さんの「手」はピアノの指導者から見ると何千人か何万人に一人の手だそうです。もちろん、単にグローブのように大きい手という意味ではありません。

 

対談のなかで小山さんの話で面白いのは「スポーツ観戦が好き。テニスでも野球でも、何故、あのボールがあの位置に飛んで行くのかを考え込んで観戦している」とか。また、これは笑って納得しましたが「『ズオーン』という音を出したい」と。ご本人の目指すところの音の一つの表現ですが、「ズオーン」という言い方が大変に面白かった。僕は、コンサートで「ドカーン」という音を聞きましたが「ズオーン」とは同義であろう。とすると僕の耳は小山さんが出したがっている音を聴いたことになる。大したもんだ。

また、青柳さんが「ステージに強いピアニスト」と評する通り、ご本人もコンサートで弾いていると、気持ちが良くなり、高揚してノリノリになるとのことです。僕が聴いたコンサートではまさにノリ捲っていたのかと嬉しくなりました。

 

 

 

『同期会、一年の後』(2017年11月12日)に記載したコンサートは僕にとって二回目の小山さんのコンサートでした。これは「音の旅」と題して、全国6都市で2006年から2017年のナント12年間に渡り24回やってらっしゃるリサイタルシリーズの最終回です。

先ほどの青柳さんの「我が偏愛のピアニスト」の対談でもこの「音の旅」が話題になっていますが、コンサートを開始する時点で、既に最終回のプログラムは決められていたそうです。最初にバッハのクラヴィーアⅠ-1が来て、シューマンブラームスショパンと続き、最後にベートヴェンのソナタ32-111で終わる。

実際にその通りのプログラムでした。12年24回のコンサートを開始する時点で最終回の演目をイメージしていたそうですから大したものだと思います。

 

この時のコンサートでは、終了時に、宗次オーナーさんが花束を持って登壇されました。普段の講演の時には、冗談・シャレの連発で話しだすと止まらない宗次さんですが、この時は珍しく声が上ずっていました。これだけ聴き込んでいる方でも感激していたんでしょうね。

 

僕にとっても最初のは衝撃的なコンサート、そして、今回は大変に素晴らしいコンサートでした。次回、三回目が楽しみです。パンフを見たら、来年の春には、アンコール公演が予定されているそうで、今から楽しみです。

 

 

 

このコンサートの前に、また件のピアニストの先生から今回は小山さんご自身が出された本『点と魂と』を借りて読んでいました。副題が「スイートスポットを探して」となっています。スポーツ選手から始まりイロイロな分野の達人の方との対談をベースにしたもの。小山さんの極意を垣間見ることが出来ます。

●「テニスのラケット、野球のバット、ゴルフのクラブ・・・スイートスポットという観点からはピアノも同じ」と。

●「スポーツもライブである、あの臨場感、生の迫力、選手の気迫、これらが好きで好きでたまらない」。ご自分のコンサートでのノリノリが改めて納得出来ます。

●脱力と集中、感覚の磨き方、体幹を鍛える・・・「スポーツだけでなく、どんな仕事や創作にも『スイートスポット』がある。それは、仕事のコツであったり、心や身体の整え方であったり、達人は『仕事の極意』を独自の方法で会得されている。」とのことです。

僕の感性は、小山さんを「体育系求道者的ピアニスト」と命名しました。

  

 

これを書いている時に、NHKで「第86回 日本音楽コンクール」ピアノ部門のドキュメンタリーが放映されました。若手のピアニストの登竜門、ファイナリスト4人のそれぞれの様子が生き生きと。そう言えば、本年の第156回直木賞(そして第14回本屋大賞も)受賞作は『蜜蜂と遠雷』(恩田陸さん、幻冬舎)で浜松国際ピアノコンクールを題材にした傑作でした。長編でありましたが一気に読んだことを思いましました。

「太陽の棘」で絵画、「蜜蜂と遠雷」で音楽=ピアノの感動を楽しむことが出来ました。「みをつくし料理帖」で料理も楽しみましたが、ちょっと意味が違うような気がします。料理の感動は芸術の域に届くものでしょうか。料理は芸術に昇華するものでしょうか?。

 

 

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同じく東山の動植物園。実際には、もっと幽玄の風情が漂っておりました。 写真の技量の無さを痛感します。ドラゴン先生やきっちゃんはキット見たとおりの景色を撮影出来るのでしょうね。残念。