クルルのおじさん 料理を楽しむ

読書日記・温暖化のお話

備忘録の読書日記です。相変わらず、千種図書館で本を借り続けています。珍しく、最近の本=本年に第一刷が発行された本を読みました。

 

『温暖化で日本の海に何が起こるのか』---水面下で変わりゆく海の生態系---、著者は山本智之さん。2020年8月第一刷、講談社BLUE BACKSです。山本さんは1966年生まれ、科学ジャーナリスト朝日新聞記者、編集委員の方です。

 

近年、異常気象は頻繁に起こっていますから、もはや「異常」ではなく、これが当たり前の状態と覚悟して対応するしかないと思っていますが、一方では、あまり物分かり良くなり過ぎないで、”おかしい”ものは、おかしいと受け止める感性は必要かと。この“異常”な状態を「当たり前」と了解してしまうことも怖いなあ、と感じております。

  

たまたまですが、12月3日の日経記事に「世界気象機関(WMO)が、2020年の世界の平均気温が史上三位以内の高さになるとの予測を発表」したことが報じられていました。「世界各地で温暖化の加速、異常気象による山火事や干ばつが深刻になっている」と。

2020年1月から10月の平均気温は産業革命前の平均から約1.2度上昇しているそうです。ちなみに、2016年が観測史上最高で、次で2019年が二番目に高い。今年は、本来、海面水温が平年より低くなるラニーニャ現象が発生したにもかかわらず、記録的な暑さになったのが大きな特徴と言われています(ラニーニャ現象が起こっていなかったら過去最高になっていた?)。 

 

更に12月6日の日経記事では、地球温暖化による自然災害の増加が『アジアに脅威』と報じられていました。異常降雨などにより経済活動が停止する恐れのある場所の経済規模を世界全体で試算したところ、中国、インド、インドネシアを中心にアジアの危険地域が世界全体の半分を占める、というものです。世界資源研究所(WRI)が公表している世界の水害リスクの約5割がアジアに集中している由。水害の被害は、経済損失をともなう自然災害のうちの4割を占めるそうです。

 

 

という訳で、地球温暖化に伴う異常降雨や自然災害のことが報道されているのは良く目にするのですが、意外と『海』そのものの変化に警鐘を鳴らしているものが少ない。この本は、科学ジャーナリストでありご自分でも海に潜り取材を重ねてきた山本さんから『海に何が起こっているか』についての警鐘です。

 

日本人の食生活と海の産物は切っても切れない関係と思いますが、山本さんの観点も大変に分かり易いです。「だし文化」の基になっている昆布---日本の昆布が激減していること。「秋の味覚」=サンマ---サンマの旬が冬にずれ込む可能性・危険性等。これらを指摘しつつ「海」の問題=「温暖化」と「酸性化」を分かり易く説明されています。

 

日本近海の平均海面水温は、産業革命以前と比較して約1.1度上昇しているそうです。世界平均を上回るペースでの上昇だそうです。”北半球の中緯度にある”という地理的なことが最大の原因の由。

(「産業革命以前との比較」というのがこの本にも日経記事にも「温暖化」問題の記述の際によく出てきます。産業革命というのは、イギリスを中心に18世紀半ばから19世紀にかけて蒸気機関の開発と動力源の刷新=石炭の有効利用!が急速に進んだ時代、ジェームス・ワットが蒸気機関を改良したのが1765年、1800年代には蒸気船、機関車、1850年代には主要国で鉄道網が整備されたそうです。「温暖化」の文脈の中では、1850年~1900年の期間を指しているようです。たったの100年から150年の期間で地球が大きく変わってしまったというのはやはりショックですねえ)。

 

海の中で起こっていることは普通は目に見えませんが、分かり易い例として指摘されているのが、サンゴの分布が北上していること。”「美ら海」からの警鐘”という言い方で、石垣・西表の石西礁湖での「白化現象」を取材報道されています。

 

サンゴ礁は生態系の観点からは「海の熱帯雨林」と呼ばれるそうです。生物の多さ、種の多様さ、複雑な生態系が形成されています。このサンゴ礁に「白化現象」が急速に進んでいる。「サンゴ」そのものはイソギンチャクと同じ「刺胞動物」だそうで、その体内に「褐虫藻」が住んでいる。この藻が光合成で栄養を作りサンゴに供給して共生しているのですが、温暖化による水温の上昇によりこの「褐虫藻」が激減し、サンゴ礁の「白化現象」が進み、大切な「海の熱帯雨林」が急速に失われているとのことです。

この褐虫藻シャコガイ等の二枚貝とも共生をしており、決してサンゴだけの問題ではない。また、温暖化の影響はサンゴの天敵であるオニヒトデの大発生を頻発させたり、また、サンゴの病気である感染症も広がっているそうです。

 

温暖化の影響として、海水面が上昇していることの問題も指摘されています。温暖化により、北極海等の氷が解ける。また、温度が高くなることで海水そのものが膨張する。海水面が上昇するということは、海の上層と下層が混ざり難くなることに繋がるそうです。何が問題かというと、下層が「貧酸素」の状態になってしまうと。生物が暮らしにくい状態です。

 

また、温暖化の進行が黒潮の流れを加速しているそうです。温暖化の進行により偏西風が強くなり、黒潮を駆動する風力が強まっていると。黒潮の流れが速くなることで、回遊出来ていない回遊魚が増えている(神奈川県立の博物館の調査)。「死滅回遊魚」とか「片道切符の旅」と説明されていますが、ナントも寂しい、怖い話だと思います。京都大学水産実験所が定点観測をして「魚の分布中心緯度」の調査をしているのですが、南方系の魚の分布は30年で300㎞以上、北上しているそうです。前述のサンゴの北上のスピードは平均的な陸上の生物に比べて二倍以上速いと。

  

 

気が滅入る話が続きますが、「海」を取り巻くもう一つの難題が「酸性化」。世界の海の表層海水のpH(水素イオン濃度指数)は、㏗8.1の弱アルカリ性だそうですが、「酸性化」が進んでいることが懸念されています。

 

大気中の二酸化炭素濃度、産業革命以前は約278ppmだったものが、近年は約400ppmに上昇していると。このままの状態が続けば、今世紀末には800ppm、来世紀の半ばには1200ppmになることを想定しての実験結果が紹介されています。

 

二酸化炭素が海に溶け込むことによる影響としては、植物プランクトンのサイズが小型化するそうです。海の「食物連鎖」というのは大変に複雑なシステムとのことですが、単純化すると「植物プランクトン→動物プランクトン→小型魚→大型魚」となり、基底として植物プランクトンの変化は連鎖の構造を根底から変えてしまう恐れがあると(短絡的に言えば、大型魚類が成長しにくくなる。また、炭酸カルシウムの殻、骨格を持つ生物(ウニ、アワビ)が暮らしにくくなると)。

 

 すでに2012年の時点で、二酸化炭素の排出がこのままのペースで進行していけば、海の「温暖化」と「酸性化」により、2070年代には日本近海のサンゴは全滅するとの調査報告も出されていた由。

 

「どうなる未来のお寿司屋さん!。海は地球の表面積の7割を占めている。陸上の変化と同等以上に、海中での変化にも注意が必要である。待ったなし!」。”待ったなしで対応が必要です!”、NHK的纏めではつまらないと思いますが、”旬が無くなる、季節感が失われる、俳句の季語はどうなるのかしら”などと、のんびりしたこと言ってる時では無いのかも知れません。普段、問題意識の乏しいモノにとっては大変に刺激を受ける啓蒙の書でありました。

 

気が重くなる中で、面白い記述がありました。大阪のことを指す「なにわ」という言葉ですが、「難波」「浪花」「浪速」等々と表示されていますが、「魚庭」と言うのが語源だという説があるそうです。魚の庭=魚が多く取れる場所。大阪湾は魚介類の豊富な海であったことを示すのだそうです。面白いですね。筆者の見立てでは、今後、鱧(ハモ)は増えるが、アナゴは減るとか。僕は両方とも美味しく頂けますから、アナゴも負けずに頑張って欲しいものです。

 

 

菅首相の初めての所信表明演説が10月26日の臨時国会でありました。成長戦略の柱の一つとして「経済と環境の好循環」を挙げ、「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボン・ニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言する」と謳いました。

 

演説自体は、首相指名から41日目という「異例の遅さ」であったとか、日本学術会議の会員任命(の拒否)問題に触れていない等々の批評・批判がありましたが、演説のなかではこの項目が目玉であったと思います。

演説の骨子は(NHKニュースの抜粋です)、1. コロナ対策と経済の両立、2.デジタル社会の実現、3. グリーン社会の実現、4. 活力ある地方を創る、5. 新たな人の流れを作る、6. 安心の社会保障、7. 東日本大震災からの復興、8. 外交・安全保障、9. おわりに。となっていました。

 

「2050年(温室効果ガスの排出量を実質)ゼロ目標」は、すでにEUをはじめ多くの国・地域で目標に掲げられていますが、今まではっきりした方針が無かった中で、遅ればせながらもスタート時点に立ったと。「今回の発表は日本経済の転換点となりえる」と評価する声も多くありました。

 

12月8日の臨時閣議では追加経済対策が決定され、この温暖化ガス排出「実質ゼロ」や官民のデジタル化に全体の7割を投じると報道されています。2030年には水素を主要燃料にするとか、また、政府発表を受けて東京都は早速に、”2030年までに都内販売の新車は全てHVかEVなどの電動車に切り替える方針”を発表とか、動きが活発になってきました。

 

政府・行政のやることにはカネも時間もかかりそうな気がします。新聞論調を見ても「コロナ危機を受けて兆円単位の予算がまかり通るようになった」「巨額の国費が”賢い支出”につながるか継続的に検証する必要」等々の危惧が強くなっているかと。政府の大方針に伴い、民間企業も動き出しています。やはり、民間企業の取り組みに期待したいものですねえ。

 

ちなみに、企業の環境対策を調査している報告書があるのですが、最新の報告書では、最高評価「Aリスト」に日本企業は66社が入り、国別では2年連続して最多になっているそうです(朝日新聞、12/9記事)。ロンドンに本部のある国際環境NGOがやっている調査ですが、「企業に気候変動、水、森林の三分野での取り組みに関する質問」を送り、「8段階で各付けして公開している」ものです。機関投資家が投資判断の材料として使い、企業側もアピール材料になるとの認識です。「Aリスト」にはトヨタ自動車花王などが選ばれている由。

 

 

2030年には僕は80歳、2050年は100歳。そもそも生きているかどうかが問題になる年齢ですが、元気に家族と一緒に馴染みのお寿司屋さんに入って「大将、いつものやつ、握って頂戴」なんて注文出来ていれば楽しいでしょうね。その時の「いつものやつ」にマグロも、ウニも、アワビも(アワビは歯が心配かな)、サンマも(寿司屋では無理か)、今、食べることが出来ているお魚が出てきてくれることを期待したいものです。

 

 

 おまけの料理です(僕の料理は「海の幸」を使っていないなあ。再認識しました)。

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左、トリ手羽先、サトイモ、ニンジンのごまみそ煮。柚子の皮を刻んで。サトイモ、ニンジンは鯱城学園・園芸科の畑で収穫したもの。柚子は班長さんからお裾分けで頂いたもの。柚子の香りがごまみその味と想像以上によく合って旨かったです。2020年12月6日、料理と撮影。

右、豚の角煮、ニンジンと煮タマゴ。タレの出汁をかけないで撮影しました。失敗。もう少しトロトロに見えたはずなのに。残念。ゆで卵の作り方(皮の剥き方)は、ドラゴン先生のワザに加え、師匠からの指導もあり”つるりと剥ける快感”を会得出来ました。2020年12月7日、料理と撮影。