クルルのおじさん 料理を楽しむ

読書日記・レシピのお話

 

12月12日に、京都トレイル・東山コースの残りのコース=伏見稲荷から蹴上までを歩きましたので「京都トレイル・東山コース、完結編!」を書こうかと思ったのですが、このところ同じパターンになっているので、「読書日記」を続けることにしました。千種図書館から「申し込みの本の貸し出し準備が出来ました」という通知が来るスピードが速くなっているように思います。有難いことなのですが、読むのが大変です。「早よう読まんかい!」とプレッシャーかけられているような。

 

貸出期間は2週間です。この期間に読み終えることが出来ずに続けて読みたいときには「延長」をお願い出来ます。他の利用者から「(借りたい旨の)申し込み」が入っていない場合は、その場で延長して貸してもらえます。2週間の延長でも読めない場合には「再延長」は認められません。いったん返却して、改めて「申し込み」を行う必要があります。他の利用者の「申し込み」が入っていない場合には、2-3日で「準備出来ました」の案内が届くようです。一人の利用者にダラダラと継続して貸すことにケジメをつけるやり方なのでしょう。 

 

プレッシャーを感じながらも読書の時間を持てることの有難さ。今回は、レシピに纏わる本のお話です。お付き合い頂ければ嬉しいです。

 

 

『口福のレシピ』、著者は原田ひ香さん。小学館、2020年8月初版第一刷。大正末期から昭和初めと現代を行きつ戻りつしながら、一族四代に亘る人間模様を描いた小説です。舞台は老舗の料理学校なのですが、そこに伝わる”豚肉の生姜焼き”のレシピが謎解きの材料に使われています。はい、小説なのです。小説とは全く知らずにリクエストしたので手にした時にはやや驚きました。

 

料理を物語の下地にした小説は「みをつくし料理帖」を読んだことがあります。大変に面白く読めた本でしたので、今回も楽しみに読みました。最近、小説は久しぶりです。文藝春秋芥川賞受賞作が毎発表ごとに掲載されますが、これは必ず読んでいます。残念ながら、最近は余りピンと来る作品に出会うことが出来ておりませんでした。

 

みをつくし料理帖」を書いたブログを埋め込んでおきます。懐かしいなあ。 

kururupapa.hatenadiary.jp

 

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 ストーリー物なので、話の筋は詳しくは書かないようにしますが、各章のタイトルに料理に纏わる言葉が入っています。チョット「みをつくし」の組み立てと似ているかも知れません。タイトルがなかなかに面白いので記載しておきます。

 

「下ごしらえの日曜日」「月曜日の骨酒」「火曜日の竹の子」「水曜日の春菊」「木曜日の冷や汁」「金曜日の生姜焼き」「土曜日の梅仕事」「日曜日のスープ」そしてエピrローグが「あと始末の日曜日」。

 

「木曜日の冷や汁」の冷や汁というのは宮崎県の郷土料理です。日向に住んでいたころ美味しく頂いていました。この本の主人公は料理大好きの女性で、本業の仕事の傍ら、好きな料理のレシピをネットで発信しています、「冷や汁」のレシピに悩んでいる時に、仲間から「なんでもかんでも入れれば良いというモノでは無い、本物の冷や汁を作ってやろう」と教えられます。この仲間は四国・愛媛の出身の男性。彼の言葉に「愛媛の人に、冷や汁は宮崎の郷土料理だと言ってはいけません。嫌な顔をされます。」と。僕と同じく、冷や汁を宮崎の郷土料理だと思い込んでいた主人公がイロイロと諭される話に繋がっています。

 

京都トレイルをしている時に、京都市街にもお好み焼きの店が多いことに気が着いたので、ドラゴン先生に「京都の人も、大阪のお好み焼き、好きなんですねえ」と軽く言ったら、「京都の人は、京都のお好み焼きが好きなんですよ」と返されました。”たこ焼き”でも同じことおっしゃるのか次回、機会があれば聞いてみようと思っています。 

 

「下ごしらえの日曜日」というのは、大正末~昭和初めのお話に出てくる、もう一人の主人公で料理屋で働く奉公人です。ある時、お店の旦那さんから”セロリを調理をするよう”に頼まれた(当時セロリなんてものは日本ではほとんど見かけなかった食材です)。料理のイメージが湧いてこないなかで、昔、実家で蕗(ふき)の煮物を食べた時のことを懐かしく思い出して料理してみたら、それが、(お店の主人に)認められる切っ掛けになったというお話です。当時、東京で試験的に出始めていた西洋野菜が登場します。セロリ、カリフラワー、レタス、芽キャベツ、に当てられていた漢字名が書かれていますが分かりますか?(あとの方に答えを書いておきます)。

 

物語はハッピーエンドです。肩も凝らずにホンワカと読書を楽しめます。昭和の初めの料理学校のメニュー開発や調理の様子、そして、現在の料理学校事情、料理レシピ投稿の企画の一端も垣間見れます。

 

「口福」という文字は、筆者の造語かと思いましたが、ググってみたら、ちゃんとした言葉でありました。中国の言葉で、文字通り「とても美味しいモノを食べて口の中が幸せだ」「その時の満足感」を表す言葉だそうです。

 

 

レシピ繋がり、その2です。『英国レシピと暮らしの文化史』---家庭医学、科学、日常生活の知恵---、著者はエレイン・レオンさん、訳は村山美雪さん。原書房、2020年7月第一刷。原題は「Recipes and Everyday Knowledge---Medicine,Science,and the Household in early Modern England---」。著者は2006年にオックスフォード大学で近代史博士号を取得、医学・科学知識の変遷と生産をテーマに研究をしている方の由。

 

最初、「レシピ」の文字を目にした時は、てっきりイギリスの料理のレシピの本と思ったのですが(そして、美味しくないと評判のイギリス料理のことをよく本に書こうと思ったものだ、と面白く受け止めたのですが)、表題の通り”レシピ”とは本来、家庭医学・日常生活の知恵を代々取り纏めたものであることを理解しました。処方箋の「処方」が分かりやすい日本語になるのですかね。

 

17世紀のイギリス、大邸宅に住んでいる上流家庭の人々の間ではレシピ作り(レシピの収集も含めて)がブームになっていたそうです。料理に留まらず、醸造法、食料の貯蔵、園芸(珍しい品種の育て方、新しい品種の開発)、家庭薬、家庭での医術、物理の実験等まで多岐に亘るレシピ作り。レシピ帳はその一家に代々受け継がれる貴重な財産であった由。

 

筆者は残されている膨大なレシピ集を読み解き、名もなき歴史の担い手達が「家庭の科学」を纏め受け継いでいたことが近代科学の発展に大きく寄与したものとして評価しています。

 

17世紀のイギリスの大邸宅の主人達。もちろん大金持ちで、たくさんの使用人を抱えている訳ですが、何もしない・出来ない人たちでは無く、地主であれ、政治家であれ、役人であれ、実業界の人であれ、皆さん極めて実践志向が高い、物事への探求心が旺盛、職人・熟練工の気質とも類似点があるような人たちが多かったそうです。文字通り自分の城は自分で守る必要があった時代、情報の収集には大変な苦労があった様子。自分の一族に伝わる種々のレシピを整理し、それを基に、周辺の人々とのコニュニケーションの材料にしていた。新たな知識の習得にも役立つ。上流階級の社交の場ではお互いのレシピの交換が貴重な役割を果たしていたとか。

 

恐ろしい疫病を予防するケーキの作り方とか、肺病に効くカタツムリの水とか、壊血病にはザリガニの粉末とか、まがい物も沢山あったように感じますが、17世紀の中ごろには、当時の読書界(出版界)でレシピの書物が登場していたそうです。

 

以上、要約したものを読むと面白そうに見えるのですが、残念ながら、この本の意図するところが最後まで理解出来ない本でありました。イギリスのローカルな文化史として読めばいいのかしらと割り切りました。17世紀というとクロムウェルの独裁、王制復古、名誉革命権利の章典、科学の進歩、近代化への歩み、植民地、奴隷取引が盛んになった時代(全てググっただけです。念のため)。大変な時代背景に応じた記述というよりも、ローカルな大邸宅に伝わるレシピ集を解読・解説しただけのように思いました。やや、残念。

   

 

とりあえず、クイズの答えです。

セロリ=白芹(しろせり)、カリフラワー=花野菜、レタス=萵苣(ちしゃ)、芽キャベツ=子持ち甘藍(かんらん)、と書いてありました。もはや、漢字・日本語の方が分かり難いですね。

 

 

以下、おまけの読書日記です。読書日記というほど本の内容を記載しきれません。本の紹介です。

 

 

イギリス繋がりで、『大英帝国は大食らい』。著者はリジー・コリンガムさん。訳は松本裕さん。河出書房新社。2019年3月、初版発行。原題は「The Hungry Empire---How Britain's Quest for Food shaped the Modern World---」、2017年出版。398頁に亘る長い本です。二回延長して読めませんでした。三回目でようやく読了です。疲れました。副題に「イギリスとその帝国による植民地経営は、いかにして世界各地の食事をつくりあげたか」とある通り、15世紀から17世紀を中心にイギリス人が海を越えて冒険の旅に出て、そして、食料探求が大英帝国の誕生に結びついていることを克明に描いたものです。藤原辰史さんが巻末に解説を書いていました。「著者(イギリス人)が描く、大英帝国による食文化の伝播、食文化の攪拌、そして植民地への重い負荷=大英帝国の所業の暗黒面を余すところなく描いている、大変な”力業”である」と評価していました。

 

この本の著者、コリンガムさんは『インド・カレー伝』、河出書房2006年、文庫2016年。原書は2005年「Curry:A biography」を書いている方でした。隠れ家の本棚を探したら文庫版がありました。途中までは赤線入れて丁寧に読んでいたようですが、最後までは読み切れなかったような。コリンガムさんの”力業”には当時も苦労した様です。内容は覚えていません。もう一度、暇な時に読んでみようかな。

 

 

まだ、続きます。 戦後の日本社会をテーマに書かれた本、二冊です。「口福のレシピ」の時代は、大正末~昭和初め、そして、現在を舞台にしていますが、その中間にある決して忘れてはいけない日本の歴史を捉えた本です。両方とも重たい内容です。

 

『日本の長い戦後---敗戦の記憶・トラウマはどう語り繋がれているか』、著者は橋本明子さん、訳は山岡明美さん。みすず書房、2017年7月発行。原題は「The Long Defeat---Cultural Trauma,Memory and Identity in Japan」。著者の橋本さんは1952年、東京都生まれ。もちろん日本の方ですが、米国在住。米国で活躍されている社会学者です。オックスフォード大学出版局から原書が出版されています。2015年発行(戦後70年の節目の年ですね)。

 

筆者は、日本、イギリス、ドイツでの生活を経験されています。日本語版への挨拶に「負けた国がそのトラウマを乗り越え、回復するためには、長くて複雑な克服作業が(日本だけでなくどの国でも)必要である」「敗北の記憶は---十分な総括がなされないまま次世代のアイデンティティを揺るがしている」と認識して、敗戦の記憶を「①美しい国の記憶=英雄として、②悲劇の国の記憶=被害者として、③やましい国の記憶=加害者として」捉え、これらが混在し相容れず、それぞれ深く刻み込まれていると考えています。日本が「普通の国」=戦争遂行能力を備えた国になるか否かの時、それぞれの記憶が①ナショナリズム、②平和主義、③国際協調(和解)主義に展開していることを丁寧に説明しています。著者ご自身の主張は出来るだけ抑えながらの議論展開です。

 

訳者あとがきには、”原題をそのまま訳せば「長い敗戦」となりますが、日本語として「戦後」とした”との記載がありました。翻訳も大変にこなれているように感じました。僕たちの世代は「戦争を知らない子供たち」ですが、だから逆に「敗戦」を背負った状態がずーと続いているように思います。「終戦」と言われていないのも好感が持てるように思います。「敗戦」に感心のある方には、是非、ご一読をお薦めします。

 

 

二冊目です。『貧困の戦後史---貧困の「かたち」はどう変わったか---』、著者は岩田正美さん、1947年生まれ、日本女子大名誉教授の方。筑摩選書。2017年12月第一刷。敗戦直後の貧困から、復興~経済成長~「一億総中流社会」の中での貧困、さらには「失われた20年」と貧困。概して「貧困」は増減で語られるが、その時代・社会により異なる貧困の「かたち」の変遷を書いた本とのことです。貧困の「かたち」「形態」は理解出来ますが、やはり、このテーマは”そやから、どないすんねん”というところが触れられていないと”なんのこっちゃ””なに言いたいねん”と突っ込みたくなってしまいますね。やや辛口のコメントでした。

 

 

「レシピのお話」から芋ずる読書で英国繋がりと日本の戦後・貧困のお話でした。お付き合いありがとうございました(チョット長すぎますね、反省してます)。

 

 

おまけのおまけ、レシピ繋がりの本をもう一冊(反省しながらシツコイですね)。『きょうから料理上手』、著者は山脇りこさん。家の光協会、2018年11月、第一刷。副題に「コツがわかるから自身がつく、きほんの10皿とアレンジ50」。レシピ本そのものです。副題の通り、基本を押さえて、その展開料理を紹介されてます。面白いことに基本の10皿の一番最初が「豚肉のしょうが焼き」でした。「口福」では西洋料理のポークジンジャーをどうすれば日本の家庭料理に出来るのか、そのレシピ作りに苦しむのですが、この本ではすっかり日本の料理になっていることが良く理解出来ました。”リンゴのすりおろし”は味付けの材料として記載されていませんでしたが、この本はイロイロと参考になりそうだと思いました。

 

 

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名古屋市千種区、星が丘テラスのクリスマスイルミネーション。左側は、椙山女学園大学生活環境デザイン科の学生さんのコラボ作品です。ミニチュアハウス全82作品、テーマは「夜明け前」。コロナを夜に例え、夜が明けることを願った作品だそうです。2020年12月9日、撮影。

 

おまけの料理です。
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 収穫した野菜を使って。左;カレーライス。ジャガイモ、ニンジン、ピーマン中心に、ルーを入れ過ぎてドロッとなり過ぎでした。残念(味は僕には問題ありませんでした)。右上;ブロッコリー明宝ハム炒め+焼き海苔を加えて。右下;ニンジンきんぴら風、すりごまをたくさんかけました。ジャガイモ、ニンジンが農園で収穫した野菜です。202012月14日、料理と撮影。