7月後半のNHK俳句です。いつもと同じく、僕の備忘録として書いています。お付き合い頂ければ嬉しいです。
7月第三週、先生は、西村和子さん。司会は、岸本葉子さん。ゲストに、スポーツジャーナリストの増田明美さん。増田さんの俳句歴はもう20年にもなるそうです。西村先生とも交流があるとのこと。透明感のあるハキハキとした声で、相変わらず堂々とお話をされていました。物怖じしないタイプの方なのでしょう。今までのゲストの方の中では、一番、発言の回数が多かったように思います。自分の好きな西村先生の句を紹介していました。
蝉しぐれ障子開けても閉ざしても 西村和子
今週の兼題は「月見草」。特選三句を紹介しますと、
第三席 吾にまだ残る純情月見草
第二席 月見草砂丘の砂は夜うごく
第一席 艇庫番一人となりて月見草
この西村先生の放送が一番時間をかけて丁寧に投句に対する講評をしているように感じます。第一席の句は、”その情景が良く見える、そして、時間の経過が良く詠われているところが大変によかった”との評でありました。なるほど。時間を詠むというのは難しいことの様です。言われてみれば確かにその通りかと思います。特選には選ばれなかった句で、僕が良いなと思った句です。
俯きて帰る球児ら月見草
ゲストの増田さんの句です。
目標のなき日々育つ月見草 カンナ(増田さんの俳号です)
僕の好きな句を増田さんも取ってましたが、やはりスポーツ界に身を置いている方ですね。第二席の句は、司会の葉子さんが月見草と砂丘の「取り合わせ」が面白いと評価していました。季語が良く働いており、幻想的な風情が漂っている由です。<なるほど>。
この第三週は「ようこそ句会へ」がテーマで、この週は、句会での「清記」「選句」のやり方、進め方を解説していました。テキストとはチョットずれている様です。テキストの5月、6月号の内容が今回の放送内容でした。コロナの影響がこんなところにも出ています。
「清記」は第三者が清書すること。清記する立場の心構えとしては、とにかく、正確に読みやすいように丁寧に書くことと。句を詠んだ本人が間違った漢字を使っている場合には、そのまま記載して、小さく”ママ”と振っておくのが丁寧な清記のあり方とか。「選句」とは文字通り自分が良いと思う句を選ぶこと。西村先生は「選句の時間」を「他人の句を選ぶ時間であると同時に、自作と再会する時間でもある」と説明。ドイツの詩人リルケの「若き詩人への手紙」にある「自作の詩に他人の筆跡で再開すること---重要であり新鮮な知覚に満ちている」という件をいつも思い出しているとのことでした。
テキストに記載されている選者の一句、
目覚めたるばかりの色に月見草 西村和子
司会の岸本葉子さんはエッセイストです。7/30(木)の日経「人生後半はじめまして」にエッセイが掲載されています。この日のタイトルは「夏の旅行になやんだあげくに・・・」。東京の方がこの夏休みに地方への旅行、帰省等々を計画する際の、お互いに遠慮、気兼ねする様を女性らしいきめ細かい気持ちの揺れとして書かれていました。この方のエッセイは読んでいて安らぎを感じます。
テキストに掲載されていました西村先生の添削コーナー、面白いと思った添削です。
原句 寄り目してそら豆を剥く幼顔
「幼子の表情を具体的に描いた点は成功しているが、せっかく『目』に焦点を絞ったのに、最後に『顔』に広げてしまったのは残念」との評。<なるほど>。
添削例 ①寄り目してそら豆を剥く幼かな
②寄り目してそら豆を剥く幼子よ
第四週は「俳句さく咲く」。先生は櫂未知子さん、生徒さんが四人。前回と同様に生徒さんに夏(七月)の季語の宿題が出されており、その採点結果からスタート。今回の宿題の季題は、七月・雲の峰・土用波・夏帽子・夏料理・海月(くらげ)・百日紅(さるすべり)・自由。最高点を取ったのは前回に続き櫻井紗季さん(東京パフォーマンスドール)、この番組4年目でこの中では一番の俳句経験者だそうです。厳しい指導が有名な櫂先生は最高点の方には特に厳しい指摘をされていました。
山よりも高く聳える雲の峰 櫻井紗季
櫂先生の評は「そりゃそだろ」。そして「山と峰という親戚の言葉を使うとは4年目とは思えぬこの失態!」と。<なるほど>。
例によって偶然の面白さですが、この時、高浜虚子著の「俳句の作りよう」を読んでいました。話が横道に逸れ長くなると思いますが、この本の紹介です。この本は虚子が大正2年(1913年)11月から俳句雑誌「ホトトギス」に連載したものが単行本化されたもの。
「俳句を作ってみたいという考えがありながら、さてどういうふうにして手をつけ始めたらいいのか判らぬ------私(虚子)はそういうことを話す人にはいつも、
何でもいいから十七字を並べてごらんなさい。
とお答えするのであります。」という書き出しで始まっています。
虚子さんの書き様が分かり易い、そして、面白いと思いますので引用を続けます。
「とにかく十七字を並べてみるに限ります。けれども十七字を並べるというだけでは、漠然として拠り所がないかもしれません。それで私はとりあえずこうおすすめします。
「や」「かな」「けり」のうち一つを使ってごらんなさい。」
そして、四季の言葉を例示して、その「どれか一つを詠んでごらんなさい」と。無造作に作った自作の句を列挙してあります。「無造作にできるものであることを明らかにするために----こういう句作を試みたのであります」と。
「まず季題をつかまえて来て、それに切字を使って、それを十七字にしてみるということが、俳句の道に入る第一の条件であります」。”季題を捕まえる、切字を使うと表現が豊かになる、それを十七字にする”、当たり前のことなのでしょうが、大御所さんから、このように平易に優しく説明して頂けると、”よっしゃ、僕にも出来そうや”と感じること間違いないですよね。
当時の俳句についての拘束打破を主張する人々に対しては、
「比較的拘束の多い俳句の天地にはいって強いて拘束打破を称えるのは愚かなことであります。私(虚子)は十七字、季題という拘束を喜んで俳句の天地におるものであります。この拘束あればこそ俳句の天地が存在するのであります。-------狭いはずの十七字の天地が案外狭くなくって、仏者が芥子粒の中に三千大千世界を見出すようになるのであります」。
以上の内容が、第一章に、初心者に分かり易いように書かれていました。
参考までに、目次を記載しておきます。第二章は長いタイトルですが、これは芭蕉の弟子の許六の言葉。「取り合わせ」とか「配合」とかの言葉をあえて使わないで説明したので、まわりくどいものになった由です。第七章までの本文だけでは全部で96頁の小冊子の長さですが、内容は、ホントの初心者から多分上級者が見ても参考になるであろう充実した俳句の入門書だと思いました。
目次
一、まず十七字を並べること
二、題を箱でふせてその箱の上に上って天地乾坤を睨めまわすということ
三、じっと眺め入ること
四、じっと案じ入ること
五、埋字(その一)
六、埋字(その二)
七、古い句を読むこと、新しい句を作ること
埋字というのは、初めて知りました。句作法、俳句の研究方法として記載されています。例題が記載されていますが、その一つに、
蟻の道〇〇〇〇〇より続きけり
有名な原句があるのですが、例え原句を知っている人でもとにかく”自分の言葉で埋めてみなさい”と。「古句の意味、その作句上の苦心のあとを十分に探り、それを自分の句作に応用することをおすすめするのであります」との説明です。
読者・門下生からのイロイロな句を紹介して解説されています。解説を省いて投句を記載しておきます。
蟻の道縁の下より続きけり
蟻の道塔より墓地に続きけり
蟻の道蝉の殻より続きけり
蟻の道先の先より続きけり
蟻の道暑き空より続きけり
解説の最後に原句の紹介です。
蟻の道雲の峰より続きけり 一茶
配合法にしても埋字にしても「自分の脳裏から生れ出たものでなく、何だか借り物らしい心持がすることと考えますが、それは必ずしもそうではない」「そこに外物の刺激を受けない限りは、重く下に沈んでいて、ほとんど死んでしまっていて、無に等しいところの思想が(この法による)刺激によって、そろそろと微動を試み始め、ついには溌溂として生動し来るのであります」と記載されていました。上手い的確な表現だなあと感心しました。
以上、「雲の峰」が兼題に出される時には、虚子さんのこの解説を思い出すだろうなあと思っていた矢先に、櫂先生の「そりゃそだろ」「この失態!」の評が出たのが面白かったというお話です。
もう一度この虚子さんの本を見たら、冒頭の最初の頁に、
「かつてある人の言葉に『虚子の俳話は俗談平話のうちに俳諧の大乗を説くもの也』とあったことは我が意を得た言である」
「近時は平易にいってすむことを高遠めかしく説くことが流行である。私はそれに与(くみ)しない」(ホトトギス大正二年11月号・虚子講述)、と記載されていました。
虚子さんは、1874年松山生まれ。1959年4月没、85歳だったそうです。今日の俳句隆盛の基盤を作った方と言われてますが、まさにその通りであろうと改めて納得しました。
第四週の「俳句さく咲く!」に話を戻します。番組では先生、生徒揃って浅草に吟行に出かけます。懐かしの金魚すくいを。俳句の世界では、金魚すくいとは言わず「箱釣り」というそうです。授業の最後には「金魚鉢」を兼題にして生徒四人が句作。惜しい句!に選ばれた塚田武雅さんが前回に続き居残り授業となりました。
原句 蕎麦頼み来るまで眺む金魚鉢 武雅
「頼む」「来る」「眺める」の動詞3個が惜しい、との評。金魚鉢を見てノンビリ寛いでる気持ちを表すのに口語使いも一案とのアドバイスがありました。
添削例 蕎麦の来るまで眺めよう金魚鉢
指摘の通り、原句ではブスッとして金魚鉢を眺めているかの感じを与えかねないのが解消されていると思います。
今週の兼題は「氷菓」でした。「さく咲く大賞」の句です。
太陽に少しかざして氷菓かな
第四週は授業内容がいっぱいに詰まっているので投句の評にまでは時間が回らず、入選と特選の発表のみとなっています。選ばれた方はやや寂しいかもですね。
選者の一句です。
虹色を尽くせばこんな氷菓かと 未知子
おまけの一句です。
サングラス掛けいざ行かん三七度 孔瑠々
おまけの料理です。
左;久しぶりにスパニッシュオムレツ。ニンジン微塵切り、紫蘇・バジルを刻んで、ハム・チーズを加えて。旨く焼けました。紫蘇とバジルが予想以上にいい香りがしました。
右;大豆水煮の焼いたん。大豆の水煮に片栗粉を加えて。鶏のミンチに同じく紫蘇・バジルを加えて、鰹節と醤油。全てを混ぜてフライパンで焼いただけ。これもいい香りがして美味しかった。もともとは枝豆を使うレシピでしたが、大豆の水煮で代用しました。
久しぶりにカミさんが隠れ家に登場。紫蘇とバジルは神奈川のコンテナ栽培のものを持参してくれました。2020年8月8-9日、料理と撮影。
おまけのおまけです。
以前のスパニッシュオムレツの写真が載っている記事を埋め込んでおきます。読み返したら、ホントに懐かしい出来事を書いていました。今でも涙が出てきます。
註;写真は、料理の写真がトップに来るように編集しておきました。少しは料理の腕もあがったかなあ??。