クルルのおじさん 料理を楽しむ

『土偶を読む』

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文藝春秋、三月特別号(今年は文藝春秋100周年ということで毎月が特別号になっています)。今月号は「芥川賞発表」、受賞作の全文が掲載されています。受賞作は砂川文次さんの「ブラックボックス」。以前、”最近の芥川賞作品が余りピンとこなくてなかなか最後まで読み切るのが難しくなった”と書いたことがありましたが、幸いなことに今回の作品は楽しく(?)最後まで読み切ることが出来ました。「怒り」「暴力」が大きな要素の作品ですから、楽しくというよりは”やや重っ苦しい憂鬱感”という感じでしょうか。自衛隊での経験とか出てくるので作者の私小説的な作品かと思いましたが、受賞者インタビューの記事を読むとそうでは無さそうなので、何やら一安心しました。次の作品は「金融」がテーマになるとか、その次は「(スマホに向き合う)公務員」をテーマに構想しているとか、いろいろなテーマを描かれるようです。

 

偶々ですが、この特別号に「土偶ゆるキャラ?」というタイトルで みうらじゅんさんと竹倉史人さんの対談記事が掲載されていました。竹倉さんは『土偶を読む』の筆者。

土偶を読む』は「土偶縄文人が食べていた植物(や貝)をかたどったフィギャアである」という仮説を立て土偶の正体を明らかにした本(同インタビュー記事から)です。読んでみようと思っていた本の一冊でした。

お二人ともにユニークな方でこの対談も面白く読めました。みうらさんは「(いろいろな活動をしている人のなかで)この人には誰も賞を贈ることは無いだろう」と思われる方に対して自らの独断で「みうらじゅん賞」を贈呈しているそうですが、その第24回の受賞者の一人が竹倉史人さん。もっともその前に権威あるサントリー学芸賞を受賞したので洒落が洒落にならなくなったという訳です。みうらさんに言わせると、常々「ケンイ・コスギ(権威濃すぎ)」には注意しているのだが、ということですが。この方の造語は確かに面白いですね。「ゆるキャラ」というのもその一つだそうです。

 

早速に千種区図書館に申し込んで借りてきました。『土偶を読む---130年間解かれなかった縄文神話の謎』。著者は竹倉史人さん。晶文社。2021年4月、初版。2021年7月、第4刷。竹倉さんは考古学者ではありません。人類学者です。

改めて当時の書評を見たら「著者は大手出版社に(この本の)企画を持ち込んだが考古学者の推薦が取れないことを理由に断られた---それを引き受けたのが晶文社---書店になかなか置いてもらえなかったが出版社の編集担当の方が本書の内容をまとめた小冊子を作り書店に配布、内容が話題になったもの」とのことです。

 

縄文時代は約16500年前に始まり約2350年前までの14000年続いた時代。狩猟採取の縄文時代の後、水田稲作弥生時代になる訳ですが、土偶は縄文中期(約5470年前から4420年前頃まで)に爆発的に増加して、それが弥生時代になると激減、弥生の後期には消滅したとされているそうです。

人類学者の観点から竹倉さんは「縄文時代の狩猟採取生活(縄文後期にはヒエ、イネの栽培・収穫も始まっていたそうですが)の中に収穫物に対する精霊信仰、儀式はあったはずだ」と考えていたそうです。動物の霊祭祀の痕跡はあるにもかかわらず、植物(等の食べ物)の霊祭祀が無いことを疑問に思っていた由。ある時、偶然も手伝い大発見、「土偶こそが植物の霊祭祀であった」と。

 

本文には「土偶のプロファイリング」と称して大きく分けて九種類の土偶の本義=何のために何を形どってつくられたのか、そしてどのように使われていたのかを調査した詳細が記載されています。土偶の出土分布と植物・貝類の生育分布を突き合わせて自分の仮説を検証していく過程などは大変にワクワクさせられます。

 

             

この本でも登場する代表的な土偶(写真はウィキからコピーしました)です。左からハート形土偶郷原遺跡、群馬県)、縄文のビーナス(棚畑遺跡、長野県)、遮光器土偶(亀ヶ岡遺跡、青森県)。これ以外にも合掌土偶(風張第一遺跡、青森県)、山の形をした椎塚土偶(椎塚遺跡、茨城県)、みみづく土偶真福寺貝塚、埼玉県)、星形土偶(余山貝塚、千葉県)、結髪土偶(大曲遺跡、青森県)、刺突文土偶(小沢遺跡、秋田県)が登場します。霊祭祀の対象と筆者が発見したものは、トチノミ、クルミ、クリ、ハマグリ、イタボガキ、オオツタノハ(貝)、サトイモ、イネ、ヒエ。トチノミの件では、アカネズミがトチノミを食べてしまう悪い動物なのですが、それを守ってくれるマムシが神の使いとして登場します。まだこの本を読まれていない方は、この土偶の写真とこれらの中のどの食べ物と結び付けることになるのか考えて見るのも楽しいかと(お暇な時に)。

 

文春の対談の中にも記載がありましたが、「(狩猟採取や)植物の栽培をする時、必ず呪術が必要であった。土偶はその際に用いられたもの。---となりのトトロで種を捲いて「伸びろ!」とお願いするシーンはその名残であろう---竹取物語とか桃太郎とか、人間は植物から生まれたという神話も」等々、人類学者の面目躍如ですね。縄文時代のフアンはたくさんいらっしゃると思いますが、益々、フアンが増えそうだと思いました。

 

以前の「縄文」の記事を埋め込んでおきます。

kururupapa.hatenadiary.jp

 

渦巻き、しめ縄文様、クルルのハート形、懐かしく思い出しました。竹倉さんの見立てと矛盾することもなさそうに感じました。竹倉さんは著書のあとがきの中で「学問の縦割り化、タコつぼ化」に警鐘を鳴らしていました。考古学と人類学、それこそ「権威が濃すぎ」にならないよう両者融合していけばもっと新しい発見も出来て面白いのではと素人は考えたくなりますね。

 

てな事を思い考えていたら、ちょっと前に読んだ本のことを思い出しました。

S.J.グールドさんの「ダ―ウイン以来」と「ワンダフルライフ」。件の京都のY君が教えてくれた本です。このグールドさんは1941年生まれ、アメリカの古生物学者、進化生物学者。『土偶を読む』との関連(?)でいうと「ワンダフルライフ」なのですが、この本は生物進化の物語、その解釈の変遷を綴ったもの。長くなりますが簡単に要点を。

「20世紀の初頭、カナディアンロッキー山中、バージェス頁岩から5億年前の化石動物群が発見された(縄文とは桁違いの大昔の話)。世紀の大発見!。発見者のC.D.ウオルコットはカンブリア紀の生物を現生する節足動物に分類した。しかし、それから半世紀のあと三人の学者がこの化石動物群を再調査、そして新しい解釈に辿り着いた。既存の分類体系に収まらない奇妙で奇天烈な動物たちの存在を世に知らしめることになった!」というもの。

土偶」の話は解釈の話ですからイロイロな説があっておかしくないと思いますが、キチンとした調査研究に基づく解釈はやはり説得力があると感じました。とにかく面白かったです。

 

 

NHK俳句、二月第三週です。僕の備忘録として書いています。お付き合い頂ければ嬉しいです。司会は中田喜子さん、選者は岸本尚毅さん。ゲストはお笑い芸人の にたりひょん吉さん。ブラック川柳ネタで人気の方だそうです。早速に川柳ネタを披露されていました。題して「学生のための川柳教室」。学生からの投句に対して にたり先生が添削するという”一人芸”です。

学生からの投句   番長と視線が合って殴られる

にたり先生の添削   番長と交えた視線腫れた頬

「あたり前のことは書かない」と。岸本教官を横にして緊張していたようですが、お笑いと言うよりも立派な川柳教室でした。岸本教官も的確な添削と評価。物腰、話振りも芸人さんというよりも学生さんのような風情を残している真面目そうな若者です。今週の兼題は「涅槃」。特選三句です。

一席   おおき足お顔とおくに涅槃像

二席   我が町の句会場なり涅槃寺

三席   涅槃図や灯に艶の刺繡糸  (灯に=ともしに)

 

面白いと思った句です。  

   借景に叡山仰ぐ涅槃寺

京都トレイルの時に見た景色かも知れませんが、こんな風には詠めないですねえ。

岸本さんの番組のテーマは「俳句と想像力」ですが、「涅槃」の例句でそれを説明されていました。

   近海に鯛睦み居る涅槃像   永田耕衣

テキストに山口誓子によるこの句の鑑賞が記載されていました。「近海(瀬戸内海でも本土の近海でも)にタイが群れてむつみあっている。ちょうど涅槃の日で寺に涅槃像が掛かっている・・・」。岸本教官によれば「目の前の物事をシッカリ見ることが俳句の基本・・・しかし、目の前にない物事を想像することもまた句作りの一面である」とのことでした。難しいですね。

 

 

2022年2月22日、「2」が繋がるのが面白いいですね。「ネコ、にゃんにゃんの日」とか「忍者の日」とか、さらに「竹島の日」の式典(島根県)とか行われていました。”北京オリンピックが終了したなあ”と思っていたら、この日の夕刊にはロシアがウクライナ東部の一部地域の独立を一方的に承認して(その地域を守るために)派兵命令を出したと。今日(25日)の朝刊は一面に「ロシア、ウクライナ侵攻」が報じられています。「暴挙」としか言いようがないですが、戦争を止められなかったことは重たいですねえ。怖いです。

 

おまけの料理です。時節柄、能天気かと思いますが。

f:id:hayakira-kururu:20220225110119j:plainカキのアヒージョ。すっかり定番です。キノコをたくさん入れました。味も満足。「ロシアの侵攻」の映像を見ながらワインを飲みました。2022年2月24日、料理と撮影。